企業を発展するためには、様々な必要な要素があります。例えば商品開発力やマネジメント力、資金力などです。一般的には、「ヒト、モノ、カネ」といわれる経営資源を示す言葉が有名ですね。近年はこの3つに、「情報」が加えられています。
この「ヒト」、つまりいかに優秀な人材を採用できるかどうかは、特に重要です。1991年私は新卒で株式会社リクルートに入社しました。当時の新人が常に聞かされていたエピソードがあります。それは「ダイエーの新卒採用成功物語」です。中内社長に新卒採用の重要性を説得し、その時入社した一期生が成長を促進したというものです。
安く、効率的に採用する方法は、中小企業の永遠の課題です。そこで本記事では、その課題解決のヒントになる個人的経験をご紹介し、詳しく解説します。御社の採用活動に役立てて頂ければ幸いです。
1. リクルートの採用手法
リクルートは、中小企業の採用のお手伝いで大きくなった企業です。ここでは、私が在籍中に経験したエッセンスを解説します。
1-1. 何か一番を持っている人材を採用する

右から2番目が江副氏
世間でよく聞くのは、「リクルートの営業マンはとても優秀な人が多い」という言葉です。ちなみに私自身はクリエイティブ採用で制作職でしたが、営業マンの優秀さは日頃から実感していました。具体的には、経営者と対等に渡り合い、課題を見つけ、具体的な解決策を提案する力を持つ人材です。
そのような人材には、どんな共通項があるのでしょうか。例えば、大きな要素の一つに”自分に対する自信”があります。そしてその自信は、過去の成功体験に基づいています。それは柔道の県大会で優勝したり、学生時代にアルバイトのアポ取りで1位だったというような経験です。特に「ある分野で1番だった経験」は大きな自信につながり、それが挑戦する姿勢に繋がると思います。
1-2. ハングリーな人材を採用する
日本が世界に誇る一流企業であるSONYやトヨタや任天堂も、かつては中小企業でした。これらの企業の成長を支えたのは、秀逸な事業プランと社員の仕事に対する取り組みだったのではないでしょうか。そして熱心に仕事に取り組む姿勢を支える要素の一つに、”ハングリーさ”があります。
このハングリーさは、どうやって生まれたのでしょうか。例えば当時のリクルートを表す言葉に、「サークルのような若くて活気のある集団」があります。そしてこの組織風土を支えていたのが、人材開発部という採用チームによる地方出身の優秀な高卒人材の採用です。その結果、社内でフェアな自由競争の雰囲気が生まれ、仕事への情熱へ繋がっていました。
1-3. 実家が商売をしている人間を採用する
リクルートに入社して印象的だったのは、活躍する営業マンの実家が商売をしていることが多かったことです。その背景には、小さい頃から「商いの現場を見る教育効果」があると思います。具体的には、日々のお客さんとの値段交渉や仕入れの段取り、資金繰りの大変さなどです。
そのようなシーンを見てきた人材は、社長の苦悩がよくわかります。例えば営業記録を持つ同期のS君は、実家が零細電気店です。またプルデンシャル生命のトップ営業マンのKさんは、実家が自転車屋です。やはり家庭環境が大きな影響を与えるというのは、普遍的な真理ですね。
1-4. 総合商社の併願者を採用する
採用で一番大切なのは、採用後に配属した現場で成果を出し、現場の評価が高まることです。中途採用の場合応募者の職務経歴書を読めば、過去の実績を把握することができます。しかし多くの新卒採用の場合、実績で評価することはできません。では会社に貢献できる人材を採用するには、どうしたらいいのでしょうか。
当時のリクルートでは、営業職の多くは総合商社を併願している人材を採用していました。例えば同じ事業部の北大出身のA君は、伊藤忠商事の内定をもらっていました。学生時代のウニの密漁事件を楽しそうに語っていたのが印象的です(笑)。密漁といっても、海辺で泳ぐついでに潜って自分達で食べる分だけ獲って食べるレベルです。海岸線には、そういった密漁を取り締まる漁業組合の監視車が巡回しているそうです。そこで彼らは巡回車の死角を狙って獲って食べるという攻防戦を繰り広げていたそうです。
総合商社志望者は、体育会出身者が多く、基本的にタフです。活躍する確率が高かったと思われます。
2. 理系の新卒を採用する方法とは

一から立ち上げたフリーペーパー『インターンsっプガイド』。4年半で実部数は10万部に達した
優秀な理系学生は、メーカーだけでなく、金融やコンサル業界でも大人気です。ここでは、理系の新卒採用のヒントを解説します。
2-1. 実理系学生の研究室とルートを作る
リクルートで10年働いた後、同期が立ち上げたインターンシップ企業に入社しました。そこでは、プログラミングができる優秀な理系学生が、ソニーやマイクロソフト、IBMで働いていました。私のミッションは、そういった東大や早慶、東工大他の理系学生の登録者数を、いかに増やすかでした。
私は、まずターゲット大学の学生で構成されるマーケティングチームを編成しました。そして、登録会に来た学生の中でターゲット学生がいた場合、リクルーティングを行いました。またターゲット大学の研究室一覧を作成し、大学別のターゲットの所在をマップに落とし込みました。
2-2. フリーペーパーで現場のリアルさを紹介
リクルートで学んだエッセンスの一つは、メディアのパワーでした。例えば訴求力の強いコンテンツは、人々の目に焼き付き、伝播します。そこで私は、『インターンシップガイド』というフリーペーパーを創刊しました。この目的は、優秀でやる気のある登録者数を増やすためです。
実際の現場で働いている理系学生を掲載し、大きな反響を呼びました。当時そういったメディアはなく、学生にも新鮮だったのでしょう。その結果、インターンシップ登録学生の70%近くがこのフリーペーパー経由という状況を生み出しました。ページを開くと企業の現場で生き生きと働く学生の姿が躍動する、そんなインターンシップガイドは実部数10万部に達しました。

当時実施していたビジネスインターンシップの教育制度
2-3. ビジネスプランコンテストも開催
理系の学生は、ある意味ピュア―な技術的探究心に満ちています。そこでロボットコンテストのような話題性があり、集客効果もあるような企画ができないかと検討することになりました。その結果誕生したのが、『無線LANプロモーションコンテスト』です。
このイベントは、インテル株式会社や株式会社ワイヤレスゲートと連携して実施しました。多くの新規の理系学生がこのイベント参加をきっかけに登録してくれ、インターンシップに参加してくれました。このような時事性の高い技術にフォーカスしたイベントは、採用の母集団形成にも効果的です。
2-4. 新日鉄の新卒採用ホームページを制作
理系学生の採用の成功事例が、新日鉄の新卒採用ホームページ制作です。これはマーケットインの発想で、ターゲット大学の大学院生でマーケティングチームを編成しました。そこで現在のホームページを徹底的に分析し、改善案をコンペでプレゼンし、見事受注できたのです。その模様は、『新日鉄の理系新卒採用プロジェクト!応募者が殺到した理由とは?』で詳しく紹介しています。ぜひ、ご覧下さい。
3. 営業マンを採用する方法とは
中小企業で一番ニーズの高い職種は、営業マンではないでしょうか。ここでは売上を上げてくれる人材の採用について、経験を交えながら解説します。
3-1. 会計事務所マーケティング企業で営業部を立ち上げる
ベンチャー企業の経営では、早期に安定した収益基盤を作ることが最重要テーマです。そのためには、売上を獲得できる営業マンの存在が必要不可欠です。以前300以上の会計事務所・税理士事務所のマーケティング企業の代表に就任した時、営業部を一から立ち上げました。
残念ながら、待遇や福利厚生では中小企業は大手企業に勝つことはできません。その代わりに、自分でどんどん新しいことができる可能性があります。この企業での営業マン採用においては、自社メディアを持っているここと、提案営業の面白さ、そして一から作り上げるヤリガイを訴求しました。さらにリクルートの営業手法を活用した「ヨミ表」「日報」「ロープレ」などのノウハウも訴求した結果、筑波大学や明治大学、立教大学出身の人材の採用に成功しました。
3-2. 旅行メディア運営企業で営業マンを採用する
当時日本で2番目の格安航空券販売サイトを運営している企業の専務に就任しました。そこでもまた、営業部を一から立ち上げました。この時は、その業界ポジションとメディアパワーを訴求しました。具体的には、旅行のコンテンツマーケティングによるポータルサイト運営と広告ビジネスです。
またオフィスの見せ方もかなり工夫しました。オーナーの友人関係で、ワシントン州立大学在籍のアメリカ人学生がインターンシップに来ており、彼女を求人広告に登場させました。それ以外にもソファを購入して社内の美観も工夫し、自社のWEBサイトに掲載しました。その結果、創業以来初めて、筑波大、明治大、法政大出身者を採用できました。
3-3. 編集メンバーを採用する
上記の企業では、格安航空券販売サイトの集客が大命題でした。グループに数社の旅行チケット販売会社があり、その送客も担っていたのです。そこでリクルートの編集ノウハウを伝授し、旅好きな人へ情報を届けるヤリガイのある仕事という訴求をしました。その結果、多摩美術大学と法政大学出身の人材を採用できました。
彼らと沖縄や京都、箱根、温泉といった旅行のテーマ別にコンテンツマーケティングを行いました。その結果、「格安航空券」というビックワードでGoogle3位まで上昇し、年間粗利で6,000万円の貢献を実現しました。
4. ITエンジニアを採用する
ゲーム会社にとって、優秀なゲームエンジニアは将来を左右する重要な存在です。例えばゲームエンジニアには、家庭用ゲームやブラウザ、3D画面など様々な分野があります。そして求められる共通の資質は、「ゲームの知識」と「高度なプログラミングスキル」です。
以前iPhoneを日本一販売して会社で知り合った人物が、渋谷のIT企業に転職しました。そのIT企業の売上のかなりの部分がゲームによるもので、優秀なゲームエンジニアの採用は必要不可欠でした。
その彼から、自社の採用サイトの改善の依頼が来ました。そこで現在の状況や商品力、労働環境、将来性などを徹底的に分析しました。また採用上の競合も分析し、差別化する方向性を洗い出しました。
次にキーワード調査を行いました。この時はコンテンツの少なさが大きな課題でした。そこで競争性の低いスモールワードを中心に作成し、Google1位を多数実現できました。その結果、慶応SFCや電通大出身者の人材を採用することができました。
5. 求職者に訴求力のある企画を作る
「ヒト、モノ、カネ、情報」と言われるように、採用は経営の重要な要素です。以前は自社の求人メディアに出稿さえすれば、一定の採用数が確保できました。社員の集合写真とオフィスを撮影し、仕事のやりがいを在籍社員に語ってもらうパターンです。これはこれでまだ王道ではありますが、他社もやっており、差別化を図るのは困難です。
私は以前、統合前の新日本製鉄の新卒採用のお手伝いをしたことがあります。当時在籍していたインターンシップ企業には、ターゲットである東大、早慶の学部生&大学院生が数多く在籍していました。そこで彼らを集めて「新日鉄新卒採用チーム」を編成しました。「もし自分が新日鉄を志望する場合、どんな新卒採用ホームページが面白いか?」というテーマです。
そして誕生したのが、「クイズで見る新日鉄」企画です。新日鉄のスケールや歴史、技術力、新規事業などをクイズ形式にして展開しました。その結果、サイトヒット数は対前年比3.5倍にまで伸び、優秀な人材を多数採用できました。
6. まとめ
知名度や予算にハンディがある中小企業は、採用活動は簡単ではありません。しかし、工夫次第によって成果を出すことは可能です。その一番のポイントは、ターゲットにとってのメリットを作ることです。
働く環境や独自制度、身に付くスキルなど、できるだけ御社独自のメリットを設定しましょう。今はSNSもかなり普及し、求人サイト以外の流入を狙うことも可能です。また予算とリソースがあれば、オウンドメディアを立ち上げることも有効な選択肢です。
採用活動をキッカケに、自社の待遇や労働環境などを整備することも重要です。近年は「働きがい」だけでなく、「社会貢献性」も重視されます。「応募者に興味を持ってもらえる魅力創造」こそが、採用成功への第一歩といえるでしょう。