企業の成長に、優秀な人材の確保は必要不可欠です。特に日本企業は、新卒採用を重視する傾向があります。その理由は、まず早期に優秀な人材を確保できます。また自社の企業風土にフィットした「生え抜き」を養成できます。
特にテクノロジーが企業経営に大きな影響を与える昨今では、理系学生のニーズが高まっています。その人気はメーカーだけでなく、金融やコンサル業界までに広がっています。その本質は、理系的論理的思考の必要性でしょう。現状を直観ではなくデータに基づいて分析する。そこから課題を抽出し、解決策を立案する。実行した後も常にデータを収集し、PDCAを回し、改善していく。こういったプロセスは、あらゆる分野のビジネスに応用できます。
そんな人気の理系学生ですが、採用するのは簡単ではありません。そこで本記事では、過去に新日本製鐵株式会社の新卒採用を成功させたノウハウを解説します。現在の新卒・中途の理系採用やエンジニア採用に共通するエッセンスがあります。ぜひご活用下さい!
Contents
1. 学生プログラマーが集結するベンチャー企業へ転職

企業のビジネスの第一線で自己研鑽する学生達
1-1. インターネット草創期の躍動の時代
リクルートで10年働いた後、その編集ノウハウを活かせる仕事をしたいと考えていました。また日本で初めての情報誌を自分で創刊したいと考えていました。そこで同期が立ち上げたインターンシップのベンチャー企業に入社しました。この企業に惹かれたのは、「学生プログラマーを企業に派遣する」というユニークなビジネスモデルです。この企業には、慶応義塾大学と共同で検索エンジンを開発した実績もありました。
このベンチャーには、パソコン通信で知り合った優秀学生プログラマーが集結していました。幹部の一人は、筑波大学で当時有名な学生プログラマーでした。また当時急速に存在感を増していた慶応義塾大学SFCの学生も多数集まっていました。
1-2. 理系学生の登録者を増やすために情報誌を創刊
そのベンチャー企業の売上は、派遣先企業の学生の稼働数と比例しました。つまりより多くの理系学生を登録してもらうことが、至上命題でした。草創期はパソコン通信のコミュニティ経由で優秀なプログラマーが集まってきました。しかし、それにも限界があります。もっと世の学生にビジネスインターンを知ってもらう必要がありました。
そこで、新しい情報誌を創刊することを決定しました。コンセプトは、『学生が元気になれば、日本が元気になる。』です。アメリカのように学生がどんどんビジネスの現場に飛び込み、自己研鑽するシーンを伝播させたい。そのような考えで、フリーペーパーを作る意気込みでした。またリクルートでの求人広告経験が活きる確信がありました。
1-3. 学生編集部を創設

学生の手にいかに渡るかという流通ルートの確立も重要なテーマだった
まず最初に、フリーペーパーを作成するために学生編集部を創設しました。担当する役割は、編集企画とデザイン、流通です。メンバーは、ターゲット大学の学生で構成し、フリーペーパー納品後に大学に設置するミッションも担ってもらいました。
この学生編集部が、のちに学生マーケティング部隊に発展し、新日本製鐵株式会社の新卒採用ホームページに繋がっていくのです。「学生のことは、学生が一番よく知っている」ーその真理を証明する機会が次々と誕生しました。応募してくれる学生は皆危機意識が高く、知的好奇心旺盛で行動力のあるタイプが揃っていました。
2. 学生の新卒ホームページ営業部隊を創設

ビジネスの現場で活躍するビジネスインターンシップの学生
2-1. ある理系学生の一言がキッカケに
学生のパワーを生かして、新サービスを立ち上げたい。例えば、理系学生のニーズと企業の採用ニーズを満たせないか。そんなことを考えていた時、ある理系学生の一言が転機になりました。
「会社の採用ホームページって、僕らの知りたいことが載ってないんですよね」
彼は、早稲田大学の大学院で化学を専攻している学生でした。たまたまインターンシップ現場の取材後の雑談で、そんな言葉が出てきました。例えば新卒の就職活動では、様々な活動ポイントがあります。そして就活準備期間では、業界研究や企業研究でホームページをチェックします。しかし肝心のホームページに、自分達の知りたい情報がないケースが多いというのです。
この言葉から、多くの企業ホームページの採用ページには、かなりの課題があると感じました。そして登録している理系学生の生の声を集めて提案する価値があるのではないかと考えました。
2-2. 学生営業部隊を創設
そこで理系学生を採用したいターゲット企業にアプローチし、ホームぺージを営業する部隊を立ち上げました。私自身はリクルート在籍時は制作職で、営業経験は全くありませんでした。しかし、現場で数多くの優秀な営業マンの実務を直に目撃してきました。またコンペでの勝率が高かったため、実は営業活動をしてみたいという好奇心もあったのです。
この学生営業部隊では、営業のあらゆることを行いました。具体的には営業リストの作成、アポ取り、営業企画書の作成、プレゼンなどです。もちろん営業には全て私が同行しましたが、できるだけ学生がトークができるようにし教育もしました。営業部の部屋で、夜遅くまでロープレをしたのは良い思い出です。例えば私が営業対象の会社の人事課長役になり、ロープレをします。その時出てきた効果的なフレーズを全て書き止め、日々ブラッシュアップしていきます。そうすることで、精度の高いトークスクリプトが完成しました。そんな時、コンペ参加のお話が舞い込んだのです。
3. コンペに勝った理由とは

新日鉄新卒採用ホームページのコンペのアプローチはかなり異色だった
3-1. 大手広告代理店も参戦
日本を代表する一流企業だけあって、コンペに参加する企業の顔ぶれは豪華でした。その中には、誰もが知る超有名大手広告代理店もいました。当初は意気込んいたものの、競合企業の顔ぶれに気圧されていたのは事実です。
コンペに参加している企業は全て、優秀なプランナーとコピーライター、Webデザイナーを擁しています。こちらの陣営は、ディレクターの私一人と外注先のWebプロダクション、そして学生です。競馬に例えると、万馬券レベルですね。しかし私達には、秘策がありました。それは、彼らが決してマネできない内容のものでした。
3-2. プレゼン開始直後に役員の顔が曇った
コンペ当日、私達のチームは私と学生2人だけでした。学生は早稲田大学と東京工業大学の大学院生です。部屋に入った時、目の前には担当の人事マネージャーだけでなく、役員と思われる方もいらっしゃいました。そして全員にプリントアウトした企画書をお配りし、プレゼンがスタートしました。最初に会社の概要を説明し、企画のコンセプトの説明に入りました。
「まず最初に、現在の御社の新卒採用ホームページの現状についてお話させて頂きたいと思います。ターゲット学生である東大、早慶、旧七帝大クラスの理系学生がどう感じているか。弊社の登録学生に、アンケートを取りました。そのフレーズを今から申し上げます。名門企業、歴史、プライドが高そう、面白みがない、ダサい、固いイメージ…。」
役員の顔が、みるみる曇っていきました。おそらく、コンペでこんな辛辣な言葉を言われたことはなかったのではないでしょうか。しかも相手は天下の新日鉄です。しかし私達は、この現状を踏まえた解決策を用意していました。
3-3. ターゲット学生だからこそ響いた言葉
ここからは、学生の登場です。予め準備したトークをゆっくり噛みしめながらプレゼンします。
「私達は、新日鉄の新卒採用ホームページをより魅力的にするにはどうしたらいいのか徹底的に議論しました。その結果、導き出されたキーワードは”楽しさ”と”ビジュアル”です。そして理系の学生には、その楽しさの向こう側に科学的要素を盛り込むとより効果的です」
ここで、先方の顔色が変わりました。先ほどの困惑した表情から、一転して好奇心に満ちた眼差しを感じました。
「今回ご提案したい企画が、2つあります。それは『クイズでわかる新日鉄』と『動画で見る新日鉄』です。そのイメージ案を本日お持ちしましたので、それをご説明します」
そこから早稲田と東工大の2人の大学院生は、クイズの構成案と新日鉄の高炉など設備の技術力の高さと雄大さを訴求点を解説しました。その感触は良好で、密かに「これはいけるかも」という期待が膨らみました。
4. アクセスは3.5倍へ!優秀な学生が多数内定
ターゲット学生の声をできるだけ反映させた新卒採用ホームページが無事完成しました。公開直後からアクセスは飛躍的に伸び、対前年比3.5倍になりました。その結果、エントリー学生数も大幅に増加し、内定者の質と数も先方に満足頂けました。
この新日鉄の新卒採用ホームページプロジェクトは、大きなノウハウになりました。例えば『クイズでわかる新日鉄』では、総務部の女性社員に登場頂きました。東急ハンズで買ってきた〇と✕のプラカードでポーズをとってもらい、テレビのような演出を行いました。またクイズの内容も元素記号や化学方程式など、専門性の高い内容を意図的に盛り込みました。
このように全面リニューアルしたことで、応募者の質も大きく変わりました。採用担当者の方から、「昨年と比べると応募者の質問のレベルが全く違う。意識も相当高い」というフィードバックを頂きました。新日鉄という企業本体は同じです。しかしコミュニケーションデザインの変化がこんなに人流を変えるのかと思いました。
5. まとめ
新日鉄の新卒採用ホームプロジェクトは、学生営業部隊の試金石になりました。なぜなら、そのビジネスモデルは自分達の強みを一番生かせるからです。
つまり、自分達と同じ学生をカテゴライズし、その分野をターゲットにしている企業とマッチングを図るのです。新日鉄の場合は、上位校のの理系の大学院生でした。それ以外にも、体育会系、マーケティング系などいろんな分野があります。
ただ理系の学生は、一般的にニーズが高いように感じます。近年は研究室から従来にパイプに乗ってメーカー就職しない学生も増えています。例えば、外資系コンサルティング会社への就職はその象徴的現象ですね。
いずれにしても、ターゲット層のリアルなニーズをいかに把握し、それをクリエイティブに落とし込めるかが勝負所です。そしてこのクリエイティブには、検索ワードを施工するSEO技術が必要不可欠です。また同時に、PDCAを回る継続的改善行動も求められます。