新規の事業開発は、企業の発展に欠かすことはできません。例えば、私が10年在籍したリクルートも同様です。新卒や中途の広告事業を核に、住宅事業や旅行事業、中古車事業、結婚事業を立ち上げました。
また2012年のIndeedの買収は大きな転機でした。アメリカで創業されたIndeedは、求人検索エンジンサービスです。そのユーザー数は世界最大で、買収金額は1,130憶円と報じられています。
このように、企業の発展の節目には必ず新規の事業開発があります。そして事業開発を成功させるには、価値の明確化や小さく早い展開、意思決定のスピードなどいくつかのポイントがあります。そこで本記事では、私の過去の実際の経験をもとに事業開発のポイントを解説します。
Contents
1. 顧客価値を明確にする

1-1. 日本で2番目の格安券販売サイト運営企業に入社
私がヘッドハンティングで入社させて頂いた旅行関係の企業があります。そのグループは4社で構成されており、私は格安チケット販売をメインに行う会社の専務取締役COOとして、陣頭指揮を取らせて頂くことになりました。
最初着手したのは、メインの格安航空券販売サイトの集客力の向上です。Amazonで旅行関係のムックを買い集め、テーマ別にファイリングしました。それをキーワードごとに構成案を作成し、コンテンツを大量にアップしていきました。その結果、年間粗利で6,000万円以上の収益向上効果を実現しました。この件については、また別途解説します。
この会社で新規事業を立ち上げるのも、私の大きなミッションでした。そこで注目したのは、大手航空会社の株主優待券の活用です。その入札権をこの企業が保有していました。株主優待券は、新宿駅西口にある大黒屋などの格安チケットショップなどに活用されているものです。それを活用し、新しいBtoBサービスを検討しました。
1-2. 誰の課題をどのように解決するか
1-2-1. 出張旅費の削減
事業開発においてまず設定すべきは、「誰の課題をどのように解決するか」です。株主優待券を活用した事業開発では、「法人企業の出張旅費を軽減する」ことがテーマでした。特に東京から札幌や東京から福岡に出張する場合、正規の飛行機代金との差額のメリットは大きくなります。
1-2-2. 顧客インタビューの実施
どんな新規事業においても、市場ニーズの現実感を把握することは重要です。具体的には、ターゲットである大手企業会社数社にヒアリングをしました。通信系や金融系上場企業の管理職クラスにヒアリングした結果、大きなニーズがあることがわかりました。
1-3. 飛行機を使う出張コストを下げる新サービス
出張費は、企業活動のコストの一つです。例えば全国に支店がある会社は、飛行機を使う出張ニーズが必ずあります。その費用を安くできて、しかも社内で予約手続きができれば非常に便利です。
このサービスの重要なポイントは、「急ぎの格安航空券の購入」です。つまり「明後日に出張が入った。どうしよう!」といった急な出張にも対応できるシステムの開発が必要でした。そこで企業に導入して頂く予約システムを自社で開発することになりました。操作画面は、通常の格安航空券購入ECサイト仕様と同じです。企業単位で月締めで集計し、請求します。大きな課題は、法人営業をどうするかでした。
2. 地上戦と空中戦の法人営業

地上戦と空中戦の営業展開
2-1. 1年間で35社の新規顧客を獲得
2-1-1. 営業は絶好のマーケティングの機会
システムが完成後にテストを繰り返し、いよいよサービスリリースです。同時に新規顧客獲得のための営業活動を開始しました。まず最初にサービス紹介のWebページをアップし、営業企画書も作成しました。また営業チームのメンバーに概要を説明し、日々ロールプレイングを実施しました。営業活動はサービスの拡販であると同時に、絶好のマーケティングの機会でもあります。特に新サービスの初期フェーズでは、重要な改善点を訪問先企業に教えてもらえることが多いのです。
2-1-2. 強力だった東大応援部OBの紹介ルート

新規開拓営業と同時並行で、過去にご縁のあった方々への営業や協業依頼も行いました。特に威力を発揮したのは、東京大学運動会応援部OBの方のご紹介です。OB・OG会には赤門鉄声会という組織があります。そのネットワークは、全国に広がっています。
リクルートという新興企業で育った者として、この東大ルートは非常に新鮮でした。ご存知の通り、官界や伝統企業における東大の影響力は非常に強いものがあります。特に金融や建設など、官公庁と結びつきの強い業界はその傾向が顕著です。また応援部は旧帝大の他の応援部との繋がりがあります。そういったルートを試行錯誤を重ねながら一から築き、新規の取引先を獲得していきました。
2-2. WEBを活用したリード獲得戦略

今や営業活動において、WEBは必要不可欠なツールです。サービスをわかりやすく説明するだけでなく、実績等のアピールにも非常に効果的です。新規事業の初期フェーズでは、リード獲得がWEB集客のミッションでした。
そのため、「経費削減」「経費 交通費」といったキーワードを意識したSEO施工を行いました。お問い合わせ件数が伸びた転機は、導入企業のインタビュー記事掲載です。そこでは、導入前と導入後の出張経費の総額の推移を明示しました。つまり出張旅費コストダウンサービスの導入効果を、月額の金額で訴求したのです。この数字の反響は大きく、大口取引につながりました。
3. 営業が軌道に乗り2年目で売上3億に

3-1. 新規の事業開発ではスモールスタートが大切
スモールスタートとは、文字通り「小さく始める」ことです。起業でも事業でも、新しく始める時に大盤振る舞いをしてしまうと失敗します。例えば身の丈以上に立派なオフィスを借りて固定費が高くなり、赤字が続いて倒産という事例はたくさんあります。やはり最初はリスクを最小限に抑えることが重要です。
今回の新規事業では、スタート時はメンバーは私を入れて4人でした。具体的には営業3人、Web担当1人です。またシステム開発はグループ会社を活用したので、かなり安く抑えました。どんな事業も早期に商流を掴み、早く損益分岐を超え、トレンドを作ることが求められます。PL意識を持って黒字拡大をいかに継続できるかが問われます。
3-2. 市場の反応を見ながら改善していく
この事業の大きな転機は、某通信系大手企業の受注です。年間の売上が5,000憶円以上あり、年間の出張金額もかなりありました。サービスの導入においては、総務担当の方と頻繁に行い、テストも何回も実施しました。サービスのカットオーバー時は、感無量でした。
特にこの企業のサービス導入のポイントは、システムの改善です。具体的にはユーザー数の大幅増加に伴うUIとUXの改善や、機能拡張です。そうした時、現場の声をいかに丁寧に広い、ユーザビリティの向上につなげるかがサービスの発展につながります。
4. まとめ
新規の事業開発は、顧客価値の明確化やスモールスタートと検証、スピーディな意思決定と体制など様々な要素があります。また推進しながらリスク管理も行い、協業や知財、法規制への視点も大切です。
特にベンチャー企業においては、早期の商流作りと損益分岐における黒字化が求められます。そのためには、初動の新規顧客から拡張性のあるターゲット像をいかに把握するかが重要です。
PDCAを回すという言葉がありますが、例えば業界別のリスト作成やメールDMのABテストなど、地道な活動は数えきれません。その実行後の数字の変化を楽しみ、その向こう側にどんなニーズがあるのか仮説を立てる。その仮説が実証される喜びこそ、ビジネスの醍醐味かも知れません。