2014年04月12日

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日本を代表する起業家、澤田秀雄氏。

HISを創業し、日本に格安旅行という概念を生んだビジネス発明家でもある。しかし、旅行業界は生活に密着した既存産業であり、インターネット産業のように新しいテクノロジーが生む新領域ではない。そして、古くから存在するガリバーがいる。

そういった環境の中で、澤田氏はどうHISを大きくしていったのか。特に旅行会社にとってドル箱のハワイの扱いが興味深い。“勝てるケンカしかしない”という、ベンチャーの鉄則がここにも見てとれる。

以前BSで『寺島実郎の月9トーク』という、就活生向けのユニークな番組があった。前Google日本法人社長の村上憲郎氏や建築家安藤忠雄氏、アミューズ会長の大里洋吉氏など、相当“濃い”人物が登場し、三井物産出身で多摩大学学長でもある寺島実郎氏が鋭い質問で切り込んでいく。

その番組に澤田氏が出演した時、興味深いエピソードがあった。澤田氏が世界各国を旅していた時、肝炎にかかった。そして「栄養のあるものをたくさん食べて、早く治そう」と思い、いろいろ食べたらどんどん病状が悪化し、歩けなくなくなるほどになった。肝炎にかかったら、食べてはいけないということを知らなかったのである。この時、澤田氏は死を意識するほどだったという。この経験以降、何をやっても死にはしないという開き直りが生まれたらしい(笑)。

プラス思考の魔術

◆ピンチをチャンスに変える生き方

プラス思考を持つ。これも大切なことだ。

私は自分にとって悪いことや、うまくいかなかったことは、すべて自分にとっての勉強材料だと考えて、発想をプラス思考に切り替えてしまう。

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人間には、ときに忘れることも大事である。ダメだったことや失敗してしまったことを、いつまでも引きずって心にとめておくと、思考そのものが後ろ向きになり、結局、自分で自分の運さえ落とすことにさえなりかねない。思い切って忘れてしまうか、なるようにしかならないとすっぱり割り切って、気持ちを切り替えてしまうことも必要なのである。

どんな人生でもどんな会社でも、問題のない人生や会社は、この世にない。どんな立派な会社でも、どんなちっぽけな会社でも、それなりにさまざまな問題を抱えながら頑張っている。問題と向き合いながら、成長しようと闘っているのだ。

ならば、その問題点や失敗を糧にしてプラス思考で物事を組み立てる人と、いつも悩み苦しんで、あげ句のはては身体を壊してしまう人と、いったいどちらが成功につながるだろうか。

私はこう対処してきた。何かの問題が起きたときは、問題点を正確に把握して、次にどう対処すれば事態をいい方向に変えられるかを考える。そして最後は、起こったマイナスの事態をプラス思考で考えて、自分が吸収すべき勉強材料を貪欲に取り入れるのである。

とくにこれから新たにビジネスを創ろうとしている、若きアントレプレナー志望者に言いたいことがある。

自分の手がける事業はバラ色一色で問題点は見当たらないとか、きっと大成功するだろうと最初から安易に考えると、必ずや事業を始めてから思いもよらぬピンチに出会うことになる。事業やビジネスが冒険であり、チャレンジである限り、そこには想像もつかない問題に出会う可能性が常につきまとっている。自分の描いた事業計画が頓挫して、つらくて逃げ出したくなるような事態が、現実には起こりうるのである。

自分の手がける事業はバラ色一色で問題点は見当たらないとか、きっと大成功するだろうと最初から安易に考えると、必ずや事業を始めてから思いもよらぬピンチに出会うことになる。事業やビジネスが冒険であり、チャレンジである限り、そこには想像もつかない問題に出会う可能性が常につきまとっている。自分の描いた事業計画が頓挫して、つらくて逃げ出したくなるような事態が、現実には起こりうるのである。

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私の事業でいえば、無形のプレッシャーを感じるようになった。業界の大手有力旅行会社が、「あの会社(HIS)に航空券を卸すならば、取引を中止する」と航空会社やホールセラーに圧力をかける動きを見せたこともあった。主力商品の格安航空券が仕入れられなければ、HISは大きな痛手を受けるはずだと考えて、仕入れの蛇口を閉めにかかったのである。

だが、こうした事態に直面したとき、わが社の社員は見事なまでにプラス思考に徹し、ピンチをチャンスに変えてきた。今までの航空券が仕入れられないのなら、他のエアラインの航空券を仕入れてビジネスを展開することはできないか。新たな仕入れの蛇口を開拓することにより、陰湿な圧力を跳ね返してきたのである。プレッシャーがかかればかかるほど社員の意気も燃え、会社全体の士気も高まっていった。

海外旅行の業界において、既得権益を持つ大手旅行会社の圧力が最も厳しい地域はハワイである。なぜならば、ハワイに日本から飛行機を飛ばしている主要航空会社は、4社に絞られているからだ。つまり、この4社の航空券さえ、ある勢力が独占的に押さえてしまえば、いくら新興の旅行会社が市場に新規参入しようと努力しても、手も足も出ない構造が出来上がっていることになる。お客さんを飛行機に乗せられない旅行会社では、ビジネスができないわけだ。

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事実、ハワイ市場に参入して最初は独創的なビジネスを展開していた中堅旅行会社も、ビジネスが軌道に乗り始めたとたん、さまざまな圧力を受けて撤退していった例がある。そうしてハワイ市場から駆逐された会社は、1社や2社ではない。

ゆえにHISも、企業としての実力がつくまでの十数年間は、海外旅行を専門に取り扱う旅行会社でありながら、ハワイ市場には一切手を出さなかった。プレッシャーを乗り切る企業体力がつくまでは、あえて静観の姿勢を崩さなかった。ハワイの企画を売り始めたのは、ほんの数年前のことである。

その間HISでは、いずれ参入したときの戦略を模索し続けていた。プレッシャーという存在を真正面から見つめることによって、あとに引き下がるのではなく、待ちの姿勢からいかに攻めに転じるかというプラス思考を引き出してきた。まさに圧力によって、HISはいろいろなことを勉強させてもらった。社員を育ててもらい、麦のように何回も何回も踏まれることによって、強くたくましく育つことができたと思っている。

ごく日常的な業務においても、私は社員にこう言い聞かせる。

「グチを言っていつまでも悩んだり、あるいは文句を言っているだけで、会社の事業が成功し、自分の担当している仕事がうまくいくのならば、好きなだけグチを言いなさい。好きなだけ文句を言いなさい」

人間だから、ついグチを言いたくなるときもあるだろう。しかし、グチを言ってばかりいると、おそろしいことにいつしかそれが口癖になってしまう。一度身に付いた習性は、なかなか変えられない。何かあるたびにグチをこぼすようになり、常にマイナス思考しかできない人間になってしまうのだ。

そして現実には、グチを言い続けたからといって、局面が良いほうに変わるなどということはない。グチは100万回言ってもグチである。グチからは、決してそれ以上のものは生まれない。

自分自身を変えるのは、自分自身しかない。逆境を転じて好機に変えるのも、ちょっとしたつまづきで谷底まで転落するのも、すべては自分自身の判断と、思考態度で決まってくる。マイナスをプラスに転じるプラス思考こそが、ピンチをチャンスに変えるのだ。