2014年04月06日

20160226机一つ

20140406HIS澤田秀雄「机二つ、電話一本からの冒険」1

営業は、どんなビジネスでも一番重要である。

営業することで販路が開け、顧客を開拓でき、商品開発にも活かせる。電話と顧客リストを手に、一日何百本とアポ取りすることだけが営業ではない。

現代においては、精度の高い見込み顧客をどう獲得するかが主戦場になってきている。顕在化した顧客の獲得競争は競争が激しく摩耗戦になる可能性が高いため、その前の潜在層にどうアプローチするかがマーケティングの主戦場になってきている。

そんな営業活動をやる上で、気が滅入ったり、ちょっとモチベーションが落ちている時に活力剤として活用しているのが、この『H.I.S. 机二つ、電話一本からの冒険』という本だ。

まさに体一つで、格安チケット販売のH.I.S、オーストラリアのホテル、航空会社スカイマークエアラインズ、エイチ・エス証券等の企業グループを成功させた人物である。

最近では、赤字に苦しむ長崎のテーマパークハウステンボスを半年で黒字化したことでも話題になった。

そんな澤田氏がまだ青年の頃、一から起業して、市場を開拓していくくだりが大好きな部分だ。

以下、その部分を紹介したい。

大阪から東京に出てきて、右も左もわからないままスタートしていった私の旅行ビジネス。とにかく壁にぶち当たってみて、学習しながら次の展開を考える。そのことの繰り返しであったような気もする。とくに航空券の仕入れに関しては、まさに、とにかくやってみようという状況で、最初は苦労の連続だった。

旅行業をやるからには、まず航空券を仕入れようと、今思えば大胆にも、見も知らぬ航空会社にいきなり電話をかけたのである。

「旅行会社ですが、そちらに安い航空券ありますか?」

私が電話口でそう言うと、すぐにガチャンと電話を切られてしまった。何か自分は変なことでも言ったのか。どうして返事もしないで切られてしまったのだろう。いろいろ思いをめぐらせて、別の航空会社に電話した。

二回目のときは、一回目の失敗で少しだけ学習していた。

「旅行会社ですが、営業部長はいらっしゃるでしょうか」

と、営業部長という人を指名する。すると当然のように、

「ご用件は何ですか」

と聞き返してくる。こちらは初めて電話する会社なので、営業部長の名前など知るわけがない。しかし、前に安い航空券をと言って失敗しているので、値段ことは一切触れずに、

「旅行会社ですが、そちらの航空券を取り扱わせていただきたいのですが」

と必死に言ってみた。すると、

「そうですか。ではどれくらい取り扱われる予定でしょうか」

どれくらい?そんなことを聞かれたのは初めてなので、ついつい正直に、

「4、5枚くらいは」

と言うと、またそこで切られてしまった。まるで相手にならない、といった感じなのである。

事実、そのころに私が取り扱えそうな航空券の数量は、月に数枚から数十枚がいいところ。バカ正直に答えてしまったのがいけなかったのか。

だが、またここで私は学習した。いくら電話しても営業部長は電話口にも出てくれない。ならば今度は作戦を変えて、営業課長に電話したらどうだろうかと、知恵を回したのである。もちろん、営業課長にも、一面識もない。

そこで課長を指名して電話を入れてみると、電話口に出た相手の態度も少しやわらかくなった。逆にこっちはわざと偉そうな口振りで話してみる。

「旅行代理店だけど、航空券を取り扱いたいと思うんだが、営業課長はいるかな」

そう言うと、営業課長が電話口に出てきた。

「どういうことですか」

「いや、当社はツアーを企画したり、グループ旅行を手配しているのだが、何かいい航空券はありませんか」

「では、どれくらい取り扱うのですか」

前に4、5枚と思わず言って、ガチャンと切られた苦い経験があるので、今度はこう言い返してみた。

「いやすぐにはアレですが、将来は100か200くらいは…」

嘘をついたわけじゃない。100、200といっても将来の話なのだから。

20140406HIS澤田秀雄「机二つ、電話一本からの冒険」2

そこまで頑張っても、相手は会ってくれなかった。電話する航空会社も最初は大手をターゲットにしていたが、全く相手にされないので、徐々に小さなエアラインに相手を変えていった。

こうなったら、もう素直を聞くしかない。どうしたら取り扱わせてくれるのか、何百枚、何千枚取り扱えばいいのか、と。

私がそう聞くと、なんと向こうのほうが“ホールセラー”というものがあると、教えてくれたのである。旅行業界に、飛行機の座席の“問屋”であるホールセラーなどがあるとは思ってもみなかった私は、大きな衝撃を受けた。

そこで攻める相手をホールセラーに変えた。私はすぐに名前を聞いたホールセラーのところに飛んでいった。

ここでもやや偉そうな態度を取って、

「営業部長の何々さんを呼んで下さい。エアラインの何々課長からの紹介だ」

エアラインの課長からは営業部長の名前を聞き出していたし、ホールセラーというものを教えてくれたのだから紹介してくれたのと同じことと、こっちは勝手に解釈することにした。

そうすると今度は航空会社の紹介という言葉が効いて、営業部長が応対に出てきた。そこからが、HISの国内における航空券仕入れの始まりであった。海外での仕入れ方法は自分の旅行経験で知っていたので、これで海外、国内の一応仕入れルートが開拓できたことになった。一番最初に、仕入れに成功した航空券はパキスタン航空だった

◆オフシーズンの航空券に着目してエアライン攻略

ホールセラーの突破口が開いて、少しずつ航空券仕入れの仕組みがわかってくると、次なるターゲットはエアラインの攻略になっていった。いよいよ本丸攻略である。

攻略のポイントは旅行シーズンの波にあった。御存知のように正月や夏休みなどの旅行シーズンのピークは、どの航空会社でも航空券は黙っていても売れてしまう。空きの席なんて一つもないような状態なのである。

だが、ピークを外れたオフシーズンは、売りたくても航空券は売れない。その余った航空券をどう売るかが、航空会社の営業的な課題でもあったのである。

「そうか、オフシーズンとはエアラインも一枚でも多く航空券を売ってほしがっているのか」

それがわかると、エアライン攻略の道筋が見えてきた。

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もともとわが社を懇意にしてくれているお客さんは学生や若者層が中心だったので、時間的な余裕はみんな持っていた。だから一般社会のオフシーズンであっても、彼らは行きたいと思ったら旅行に出かけることができる。航空券も売れる。ならば、エアラインも喜んでくれるオフシーズンの航空券を、わが社で頑張って売ろうじゃないか。

発想を転換して、オフシーズンの航空券を売りたいとエアラインに申し出ると、相手も乗ってきた。こうしてHISは、オフシーズン用旅行のオリジナル企画を立ててはキャンペーンと称して、学生層に格安航空券を提供していったのである。

このオフシーズン航空券の販売は、ドイツのナイトツアーのところでも書いたように、かかわっている人が、みんな喜んでくれるビジネスであった。航空会社にしても空いている席が売れるのだからうれしい。一方、買ってくれるお客さんも、オフシーズンの航空券は安いので喜んでくれる。我が社もビジネスが広がるので、何十、何百単位の航空券を喜んで売る。要するに、オフシーズン航空券を販売して損したり、いやがったり、迷惑したりする人は、誰もいない。みんながハッピーになれるビジネスだった。

またこれは、一種の隙間ビジネスだった。大手の旅行代理店ではそうした航空券は取り扱わない。だが、世の中にはオフシーズンでもいいから、できるだけ安く旅行をしたい人たちが確実に存在している。わずか一週間、旅行の日程を変更するだけで、チケット代金が10万円違うのなら、そちらを選ぶという旅行者がたくさんいるのだ、という発見でもあった。そこにこそ、新たな市場の創造があったのである。

一からあの手この手で工夫しながら、道を切り開いていく模様が最高に面白い本だ。

今、アベノミクスで無制限の量的緩和や円高の是正に代表される金融政策、大規模な公共投資に見られる財政政策、各種成長戦略が話題になっているが、アメリカを見てもわかる通り成長の根源は“新サービスの創出”であり、そのためには起業家精神をもっと根付かせる必要があると思う。

今や東大を出て高級官僚になるのが、生涯賃金及び世の中のブランド力の双方において、最高の人生コースではなくなった。また有名大学を出て、大手企業で長年勤務し、出世するのもメジャーではなくなりつつある。

人間は、環境に育まれる生き物だ。IBMが倒産危機に陥った時、そこを飛び出した人材から、多くのベンチャー企業が生まれ、それがその後のシリコンバレーの活性化につながった。

そういう意味では、日本には大きく2点欠けていると思う。

1点目は、“起業精神を育む教育”だ。古くは松下幸之助やソニー、最近では楽天やHIS、リクルート、ユニクロ、ソフトバンク、Google、アップル、サムスンなどの国内外企業の成長の歴史を公的教育で扱い、マーケティングの基礎理論から課題、コンテスト、インターンシップ等、理論と実践を強力に推進する。

2点目は、“失敗を恐れない社会作り”だ。アメリカの会社の社長は、事業に失敗しても自己破産しない。エンジェル制度を充実させ、優れたアイディア一つでどんどん新サービスが出現する世の中にする。当然、上場基準、優遇税制やストックオプションの改正も含め、“変革者が報われる社会システム”を構築する。

超高齢化社会が、すぐそこまで迫っている。高度な教育を受け、知識と富とネットワークを持った人間が、国外に逃げていく。日本の英語教育の時代錯誤性が皮肉なことに今は生簀の網の機能を果たしているが、それも長くは続かない。中国は既に共産党の幹部のかなりの部分は、師弟を海外のエリート校で学ばせ、財産も移しているという。

日本人は“日本愛”が強いため、中国と同軸で論じることはできないが、そういったことになる前に手を打つ必要がある。安倍首相のまわりにはマッキンゼー出身者が相当いるので、そういったセンスは歴代の首相より優れていると感じる。腹を割って話せる外国人の友人が一人もいないような人物は、もはやどんな国のリーダーにもなる資格はない時代だ。ジム・ロジャースを金融庁特別顧問に入れるだけで、日経平均は10%上がるのではないだろうか(笑)。