2014年03月24日

20160226ネット監視

20140324代1

「エネミー・オブ・アメリカ」というヒットした映画がある。

弁護士役のウィル・スミスが、いろんな事件に巻き込まれる。そのトラブルを一緒に切り抜けるのが、元NSA役のジーン・ハックマンだ。

この映画の面白いところは、いたるところに電話の盗聴、政府の監視カメラによる追跡シーンが出てくる点だ。カメラがあるところ、電子履歴が残るところには、全て“覗く”ことができる。そこに、“プライバシー”という概念はない。

この映画が警告した、“権力の暴走”がまさに今起こっているのは皮肉としか言いようがない。

PRISM’S SPECTRUM OF SPYING
ネットを監視するアメリカ政府の陰謀

ネット企業を巻き込んで世界中の個人情報を広範に収集する米政府のやりたい放題

アメリカ政府はネット上の膨大な個人情報をひそかに収集している―そんな内部告発によって国家安全保障局(NSA)の秘密監視システム「PRISM」の詳細が明らかになったとき、バラク・オバマ大統領は国民を安心させたい一心で、アメリカ人の情報は収集していないと弁明した。

なるほど。つまり「アメリカ人以外」の情報は監視しているということか。

リークされたPRISMの解説資料によれば、NSAはグーグルやマイクロソフト、フェイスブック、ヤフーといった主要ネット企業のサーバーから、個人の電子メールやユーザー情報を直接入手できるという。

20140324代2

名指しされた各社は当初、関与を否定していた。だが今では、一部の企業幹部が匿名を条件にシステムの存在を認め、外国人ユーザーの情報をNSAなどの政府機関と共有するためだったと語っている。

こうなると地球規模のスキャンダルだ。世界各地の人権団体は以前から、アメリカ政府がGメールやホットメールなどを通じてやりとりされる外国人の通信内容を監視している可能性を指摘してきたが、今回の暴露でその懸念が裏付けられた。

今年に入ると、欧州議会に今日の事態を予見するような報告書が提出された。アメリカの外国情報監視法(FISA)が改正され、「外国人のデータに関する純粋に政治的な監視」にゴーサインが出た。これでアメリカ政府はグーグルなどの米企業に対し、欧州の人たちの通信内容をリアルタイムで内密に提供するよう強制できることになった―そんな内容である。

この什組みは、まさにPRISMそのものだ。NSAの職員はこのシステムに検索ワードを人力するだけで、協力企業からデータを(一部はリアルタイムで)人手できるらしい。

◆無視され続けた警告の声

国家情報長官のジェームズ・クラッパーは、PRISMシステムがFISAのある条項を根拠に運用されていることを認めている。それは「非アメリカ人」の動向の広範囲な監視を認めるもので、「非アメリカ人」には外国のスパイやテロリストと思われる人物はもちろん、「外国にある政治的団体」も含まれるという。この最後のカテゴリーは定義が実に曖昧で、ジャーナリストや人権団体も含まれている可能性がある。

それだけではない。間違って、アメリカ人の情報をのぞき見してしまう可能性も大いにある。米国民は合衆国憲法修正第4条の下で「令状なき捜索」を受けない権利を保障されているが、監視対象が米国民か否かを判別する精度は「51%」でいいことになっている。もちろん、外国人のプライバシーは何ら考慮されていない。

欧州議会の一部議員は以前から、アメリカの監視システムに対抗するため、欧州のデータ保護規制の見直しを求めてきたが、彼らの警告には誰も耳を傾けなかった。しかし、PRISMの存在が明らかになったことで、彼らの懸念が被害妄想ではないことが、ある程度まで裏付けられたことになる。

こうなるとEU(欧州連合)も座視できない。欧州委員会のビビアン・レディング副委員長は今月初めの声明で「個人情報の保護に関する明確な法的枠組みは、贅沢でも制約でもなく、基本的人権の1つだ」と述べ、EU全域をカバーする厳格なプライバシー保護規定の導入を欧州委員会が支持する可能性を示唆している。

一方、オランダ選出の欧州議会議員ソフィア・イントベルトは何年も前から、米政府にはEU市民を監視する能力があると訴え、その危険性に世間の目を向けさせようと努めてきた。

イントベルトは筆者の電話取材に応え、PRISMの存在が明らかになったことにショックを受け、これでヨーロッパにおける個人情報保護規制は新しい段階に入るだろうと語った。

「目を覚まさないといけない。これは深刻な事態だ。アメリカ政府はすべてを、文字どおり私たちのすべてを知っているのに、私たちにはその権力をチェックする手段がない。これでは民主主義と言えない」

欧州議会の市民的自由・司法・内務委員会の副委員長でもあるイントベルトは、問題の一部はEUが「受け身」に回り、国家安全保障の問題に関してアメリカに抵抗するのを遠慮してきた点にもあると言う。

米オバマ政権はPRISMの暴露を受けて、NSAの監視活動は米議会の監督下にあると主張しているが、イントベルトはそんな弁明も一蹴する。

米上院情報特別委貝会のダイアン・ファインスタイン委員長について、イントベルトは数年前に会ったときの印象をこう語った。「基本的人権を重視する人物という印象は受けなかった。まったく逆で、すごく失望した。彼女の下で行われている監視なんて信用できない」

20140324代3

ドイツやオランダ、イギリス、ベルギー、ルーマニアの政治家は、PRISMに関するEUレベルの調査を求めている。ドイツ政府でデータ保護と情報の自由を管轄する責任者のペーター・シャールも、「さまざまな電気通信とインターネット・サービスを漏れなく監視するという言語道断な疑惑」に関するアメリカ政府の「明確な説明」を要求した。

シヤールの心強い味方はアンゲラ・メルケル独首相だ。メルケルは今週のG8首脳会議の席上、オバマにPRISM問題をただすことになっている。

カナダやオーストラリアの政府高官も懸念を表明している。カナダ・オンタリオ州のアン・カブキアン情報・プライバシー・コミッショナーは、PRISMの存在には「息が止まるほど驚いた」と語っている。

◆テクノロジーで状況一変

何十年もの間、諜報機関は情報収集活動の一環として、国外の通信を監視してきた。しかし国連の言論・表現の自由に関する特別報道官フランク・ラ・ルエが今月の緊急報告で指摘しているように、新しいテクノロジーが状況を一変させた。

各国政府はそうした技術を利用して、かつてないほどあらゆる分野で秘密裏に、国民に知られることなく監視できるようになった。これがPRISM問題の本質だ。有力なネット企業もアメリカ政府の要請には応えざるを得ず、自分たちの顧客の基本的人権を踏みにじってきた。

今のスパイは、外交官の専用回線に侵入したり特定の人物を狙ったりしない。もっと幅広く、地球上の誰のデータでも簡単に入手できるからだ。PRISMの存在が世界に知られるきっかけをつくった元CIA(米中央情報局)職員エドワード・スノーIデンも、NSAは「すべての人の通信を標的にしている」と断言した。

国家情報長官のクラッパーによると、スパイといえども「米国民の基本的人権とプライバシーの尊重に努めている」そうだ。しかしアメリカ政府も受け入れている世界人権宣言は、国籍を問わず世界中の誰にも「プライバシーや家族、家庭、通信」への「恣意的介入」を許さない権利があると宣言している。

この普遍的な権利を、PRISMは土足で踏みにじった。他国の政府も、喜んでアメリカのまねをすることだろう。