2014年03月19日

20160226ヒトラー最強のプレゼン術

 

アドルフ・ヒトラー。この人物ほど、有名な独裁者はいないだろう。

ラジオやポスターといった当時としては斬新なメディアを活用し、弱小政党を一気に第一党へ押し上げた。人類史上稀に見る大虐殺を極めて計画的に行い、最後は失意の中ピストル自殺した。自身は菜食主義者で、愛犬を飼っていた。アウトバーンの建設やジェットエンジン戦闘機、ロケットなど、戦後米ソで花開く技術の元も多数開発している。

ヒトラーが影響力を持った最大の要因の一つが、演説力だ。演説後体重が3キロ落ちるほどの精力的な彼の演説は、女性にも大人気だったらしい。そんなヒトラーの演説を、プレゼンテーションの視点で分析するのが以下の特集だ。

聞く人の心を揺さぶる“黄金律”とは?

 

独裁者たちに学ぶ「最強のプレゼン術」

20140319ヒトラー最強のプレゼン術1
「独裁者」は多くの人に恐れられると同時に、一部では熱狂的な支持も得ていた。それは、彼らが例外なく、巧みな弁舌で聴衆を魅了したからだ。ここでは3人の故人の演説から、「共感を勝ち取る」ノウハウを学んでみよう。

アドルフ・ヒトラー

ナチス(国家社会主義ドイッ労働者党)の党首として、10年以上にわたって戦前のドイツを率いた独裁者がヒトラーだ。アーリア人(ドイツ人)の民族的優位を唱え、その血を汚す存在としてユダヤ人や障害者を差別し、大量虐殺したことで歴史に悪名をとどろかせている。1945年死去。

ドイツ国民同志諸君。

本年1月30日、国民の創意に基づき、挙国一致の新政府が樹立されました。

私の過去数年に及ぶ闘争は、ついにその目的を達成しました。この数百万人による運動の目的は、みなさんもご存知の通りです。

ですがいま一度、この運動の経緯について、そしてドイツの復活闘争の第二段階について、大まかに説明したいと思います。

まずは、名誉を回復すべきです。我々はいま、過去のドイツに誇りを持つことができても、いまのドイツには恥じ入るしかないのです。

弱腰の外交政策と政権の腐敗によって、この国の崩壊が始まったのです。我々が誇りにしていた偉大な国家は腐敗し、不正がはびこっています。そして我々の国は衰退していく一方です。これらすべてが、これらすべてが我々に押し付けられたのです。1918年11月のあのときに!

いったい14年ものあいだ、政府は何をしていたのでしょう?国家財政を混乱させ、何億もあった金はすっかりなくなってしまいました。インフレという愚行を犯し、国は荒れ果て、不当に高い利子を外国から突き付けられています。

そしていま、我々はあらゆる階級の人々が衰退していくのを目の当たりにしています。中産階級は希望を失い、何十万もの人々の人生が破綻しました。失業者の数はさらに膨らんでいくばかりです。100万、200万、300万、400万、500万、600万、700万…今日では700万から800万人です。

我々自身がドイツ民族を、その勤勉と決断と誇りと屈強さによって、繁栄させようではありませんか。そうすることで、我々はドイツを興した祖先と同じ高みをきわめることができるのです。

私は確信しています。手遅れにならないうちに解決したいのであれば、いますぐ行動しなければなりません。だから、私は決心しました。

私を含め7人からはじまり、いまや1200万人にもなった我が党は、1月30日、ついに祖国ドイツを救済することを決定したのです。

ちょうど私が14年間、この運動を確立するため、疲れを知らず働き、7人の政党から1200万人の人々の支持を得る大政党へと成長させたように、これからも我々は奉仕し続けるつもりです。

【POINT1】
黄金律①「欠落した主人公」(=衰退していくドイツ)を明らかにする

【POINT2】
数字を重ねることで、いかに失業率がひどいかを強調する。言葉に韻を踏ませることも、同時に意識している。

【POINT3】
黄金律の②「遠く険しい目標」を明らかにする。これまでの演説の流れで、聴衆の盛り上がりもピークにさしかかる。

【POINT4】
自分のストーリーを重ね合わせる。ドイツの復活と、ヒトラーがのし上がってきた道のりが錯綜して「催眠効果」が生まれる。

人の心を動かす演説には、いくつかの共通するパターンがあります。その一つが、「ストーリーの黄金律」です。この黄金律は、小説やマンガ、映画、さらには神話などさまざまなコンテンツに見られるもので、独裁者のスピーチにもしばしば使われています。

その黄金律とは、

ヒトラー最強のプレゼン術2
①何かが欠落した主人公が、
②遠く険しい目標を目指して、
③困難な障害や敵に立ち向かう

というものです。この3つの要素が入っていると、人は感情移入しやすくなり、行動する気持ちをかきたてます。いわば、人類に共通する「感動のツボ」ですね。

ヒトラーの演説を見てみましょう。これは彼が首相に就任してから11日後の1933年2月10日に、ベルリンスポーツ宮殿で支持者2万人を前に行ったものです。実際のスピーチは2時間以上に及びましたが、ここではその一部を抜粋して紹介します。

彼の演説の主人公は「ドイツ」です。第一次世界大戦に敗れ、戦勝国に莫大な賠償金を支払わなくてはならなくなりました。街には失業者があふれ、人々は自信を失い、かつてのドイツ帝国は見る影もありません。

本文中の1918年というのは、ドイツ帝国が滅び、ワイマール共和国が誕生するきっかけとなったドイツ革命が起きた年です。多くの国民にとって、屈辱の年と記憶されています。そこでヒトラーは聴衆にそのことを思い起こさせ、ドイツ帝国の栄光を再び取り戻そう、と語りかけるのです。

ここで注目したいのは、ヒトラーが「ドイツの復活」と自分自身のストーリーを巧妙に重ね合わせていることです。つまり、ちっぽけだったナチスを大政党にひきあげた自分なら、いまのドイツを復活させることができると主張しているのです。本来は無関係のはずの2つのストーリーを交錯させるこうした手法は、米国のフランクリン・ルーズベルトやオバマ大統領の演説にも見られます。聞き手は、「この人な
ら国を救ってくれるはずだ」と錯覚してしまうのです。

もう一つの注目ポイントは、ヒトラーが数字を多用していることです。とくに、彼は数を重ねていくテクニックをよく使いました。実際の演説を聞くと、「100万、200万、300万…」と語尾が韻を踏んでいて、聴衆に危機感を抱かせる“催眠効果”を持っていることもわかります。

もしヒトラーが、広告マンだったら、優れたプレゼンテーターになっていただろう。その時、彼ならどういう企画書を制作するか。想像すると、ちょっと面白い(笑)。