2014年03月15日

2016ハリウッド

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ハリウッドの成功者という響きには、一種独特の響きがある。

海千山千の欲と野心の渦巻く世界でのしがっていくためには、才能だけではおそらく無理だろう。そういう意味では、かなりタフなネゴシエイターでもあるだろう。

そのハリウッドの映画プロデューサーの説得の極意は、ストーリーテリングの効果を説いている。

伝説のプロデューサーが教える「説得」の極意

共感できる「ストーリー」を語れば、人は必ずついてくる

人を動かすために一番大切なのは、心に響く「物語」を語ることだ。
ハリウッドの成功者に学ぶ“ストーリーテリングの魔力”。

私は“ストーリーテリングの都”の住人で、物語ることを生業としています。これまで『レインマン』『バットマン』『愛は霧のかなたに』といった映画を製作してきました。

私は40年間、映画業界で生きてきて、ストーリーが映画や芝居、小説だけのものではないと気付きました。ストーリーとは、娯楽以上のものなのです。ストーリーは、コミュニケーションにおける最も効果的なツールで、どんなデータの束よりもパワフルです。

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予算9000万ドル(約90億円)の映画を製作する上でも、締め切りに間に合うよう従業員を急き立てる上でも、あるいはわが子が危機を乗り越えられるようにアドバイスする上でも、ストーリーを語ることは相手を説得するのにいちばん有効な手段です。

パワーポイントによるプレゼンや、データの山が人を動かすことはあまりありません。一方、登場人物に共感し、経験を分かち合えるような物語は人の感情を揺さぶります。

人類はストーリーなくして今日まで生き延びることはなく、自らを理解することもなかったでしょう。ストーリーは記憶力を高め、ものごとを理解する手助けをするのです。もっと言ってしまえば、物語ることは脳の働きと密接にかかわっているのです。ストーリーは“情報のおまけ”で、仕事の本質的な部分とは関係ないとみなされがちですが、それは間違っています。

◆カンヌを制した物語

私はエンターテインメント業界で働きながら、ストーリーが持つ力について多くのことを学んできました。

ポリグラム・フィルムド・エンターテインメントの会長兼プロデューサーだった80年代初頭のことです。『チャールズ・ホーマンの処刑』という本をもとに映画を製作し、配給してほしいという売り込みがありました。

それはチャールズの父エド・ホーマンの経験を描いた実話でした。保守的な米国人であるエドは、失踪したジャーナリストである息子を探して南米に向かいます。そこでエドは息子の妻のベスと合流し、チャールズの行方を追って国家機関や政府の陰謀を詮索していきます。最初エドとベスは政治信条の違いから対立しますが、エドは徐々に米国政府が真実を隠していることに気付く―そんな話です。

メガホンを取るのは、映画『z』でアカデミー外国語映画賞を受賞した偉大な監督コスタ・ガヴラスということでしたが、私は説得されませんでした。

南米における革命なんてテーマは、米国市場で売りにくいからです。しかも、息子はすでに死んでいて、父が彼を見つけることはないという結末も、はなから見えている。このストーリーは死んでおり、投資の価値はないと思えたのです。

私はたんなる義理でエドに会いました。和やかな挨拶の言葉を交わしたあと、彼は本棚に飾ってあった私のティーンエイジャーの娘の写真に目をやり、「あなたはご自分のお子さんのことを本当にご存知ですか」と尋ねました。「本当に理解されていますか」―そう彼は語り始めました。

彼の息子の捜索は、息子がどこにいるかより、何者だったのかを探る旅だったそうです。エドははじめから息子が死んでいると直感していました。旅は意外な展開を見せ、政治信条的に対立していると思っていた父と息子がじつは多くの価値観を共有していたことが明らかになります。この旅は決して“死んだ話”などではなかったのです。

エドの語りに私は一個人として惹きつけられ、息子探しの旅に感情移入しました。自分の娘たちのことを本当に知っているのか、彼女たちの価値観や信条、希望や夢を理解しているのかと自問しました。エドのストーリーは私の心を動かし、次に頭を動かし、ついには“財布”をも動かしました。

エドの役はジャック・レモンが演じることになりました。レモンもまた一人の父親として、このストーリーに突き動かされたのです。こうして完成した「ミッシング」はカンヌでパルムドールを受賞し、レモンも主演男優賞を獲得しました。

◆比喩がストーリーを豊かにする

ストーリーを語るとき、まず狙うべきは「心」です。行動を促すためのストーリーは、聞き手の感情を揺さぶらなければなりません。

もっとも効果的な方法は、比喩やアナロジーを用いることです。それらは豊かな感覚、感情を伴うイメージを喚起します。

「人は物事を他の何かと結びつけて理解し、記憶します。脳が物事を整理する方法の一つは、比喩を用いることです」とメディア心理学研究センターの所長パメラ・ラトリッジは言います。

ストーリーの力を脳が享受できるのは、経験の「心的表象」を形成する能力のおかげです。「心的表象」は前頭前皮質に宿る能力で、私たちに疑似体験をさせ、他者の経験を楽しんだり、直接経験していないことから何かを学んだりすることを可能にしてくれます。

また、UCLAで精神医学を教えるダニエル・シーゲル博士は次のように語っています。

「ストーリーテリングは物事をまとめあげる作業です。物語はさまざまなディテールをつなぎ合わせるだけでなく、ディテールを呼び起こすネットワークを強化します。人はディテールを、それがストーリーのなかに組み込まれているときのほうがよく記憶するということがわかっています」

◆トラブルを乗り越える物語

このように脳にはストーリーを語るための回路があらかじめ敷かれているのかもしれません。とはいえ、人を動かすには回路のスイッチを入れる必要があります。

説得力のあるストーリーの大半には、共感できるヒーローがいます。そして、3つの重要な要素―挑戦、奮闘、解決―が必要です。トラブルに立ち向かい、それを苦労して乗り越えることがドラマを生むのです。

2009年に、あるプロデューサーがベサニー・ハミルトンの自伝をもとにしたインディペンデント作品の売り込みに来ました。

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ハミルトンは幼い頃からサーフィンに親しみ、多くのコンテストで優勝するる才能の持ち主でしたが、13歳の時に左腕を4mもある鮫に食いちぎられてしまいました。大量出血したハミルトンを友人たちは大急ぎで岸に連れ戻し、ボードと足をつなぐコードで応急処置をして病院に運びました。それからわずか数週間後、彼女は片腕で波に乗る方法を研究していました。そして再びいくつもの大会で優勝するまでになったのです。

プロデューサーはさまざまな数字を挙げ、予算について話しましたが、私の心は動かず、一旦企画はお流れになりました。「ねえ、映画館に行こうよ。予算内で製作された映画があるらしいよ」という人なんていませんからね。

ところがある日、ハミルトン本人がハワイのカウアイ島にある私の家を訪ねてきました。義腕をつけることもなくノースリーブの服を着た彼女は驚くほど自然体でした。その自信がどこからくるのかと尋ねると、彼女はこう答えました。

「鮫は私の腕を食いちぎったわ。でも、私の夢まで奪うことは許さないと決意したの」

ハミルトンは、信仰を糧に苦難を乗り越えた話をしました。

「いまでは人生により大きな目標を見いだしている。神の愛を皆に知らせることよ。私の身に起きたことを知ってもらうことで、どんなことがあっても諦めないようにしてほしいの」

ハミルトンのストーリーは、プロデューサーが挙げたどんな数字より説得力がありました。さらに彼女の経験はティーンエイジャー、サーファー、ジョーズ・ファン、信仰を持つ人など大勢の観客に訴えるものであり、商業的にも映画化すべきだということに気付かせてくれました。ストーリーは人の心を動かすだけでなく、モチベーションも与えてくれます。それは人がストーリーのなかに、自分自身の可能性を見いだすからなのです。

◆ストーリーと脳の本質

人間は統合的な存在で、一つのまとまった意識を持っていると私たちは考えがちです。しかし脳の観点から見ると、それは事実ではありません。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校で心理学を教えるマイケル・ガザエガ教授によると、脳には中央司令塔にあたる箇所はなく、高度に専門化された処理機構が無数に分布しているそうです。

では、なぜ脳はまとまりのある一つの器官であるかのように機能しているのでしょうか。それは、人が自らにストーリーを語るからだとガザユガは言います。

実際、私たちの左脳には脳内に散らばったバラバラの事実をもとに、物事を説明しようとする機能があります。混沌の中に秩序を求め、物事の因果関係を見いだそうと、「インタープリター(通訳)」と呼ばれる左脳のモジュールが、あらゆる要素を理路整然としたストーリーのなかに当てはめていくのです。

私たちが感じる精神の統一感はこのインタープリターの特殊なシステム、つまり私たちのなかに組み込まれたストーリーテラーによってもたらされているのです。

このように私たちは文字通り、「物語ること」によって自己を確立しています。ストーリーは文学や映画の一分野である以前に、脳のシステムと密接に関わっているのです。そう考えると、ストーリーがこれほどパワフルな効果を持つこともうなずけます。

さらにストーリーは、人生の“代役”にもなります。短い人生のなかでは直接経験できないことについても、ストーリーを通して知識を得ることができるのです。脳撮影技術を用いた研究によると、物語の読者は過去の経験のなかから借用できるものを駆使して、ストーリーが描写するイメージや音、味覚などを脳内で再現するそうです。

◆タイの宮殿で語った物語

この脳の再現力こそが、人類の進化を促したのかもしれません。致命的な危機を逃れた人の話を、私たちは危険な目にあうことなく自分の中に取り込むことができます。その結果、私たちは問題解決の方法を探るチャンスを手にすることができます。また、ストーリーを伝えることは、私たちの祖先の社会的団結を促し、生存力を高めてきたともいえるでしょう。

最後に、私が人を動かすためにストーリーを語った例を披露しましょう。私がソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの会長を務めていた頃、映画や音楽の海賊版がタイで大量に作られていたために、会社は莫大な損失を被っていました。そこで私はソニーの大賀社長とともに、プミポン国王に直談判すべくタイに飛びました。機内で、私はストーリーを練りました。そして国王自身も音楽家なので、芸術家が作品で食べていけなくなれば、夢を諦めざるをえないという話をすることにしました。

絢爛豪華な宮殿の応接室で、色とりどりの勲章に覆われた純白の軍服を身にまとった国王を相手に、私は用意したストーリーを語り始めました。しかし大賀社長が、しきりに何かを促します。私は構わず話し続けました。すると社長が声をひそめて「クーパーさん、この人は国王ではありません。あちらにいらっしゃるのが国王です」と部屋の向こう側にいるしわくちゃの灰色のスーツを着た人物を示しました。私が熱心に語りかけていたのは、護衛だったのです。

私は気を取り直し、自分の失敗を打ち明けてから用意したストーリーを短縮して話しました。すると国王は、自分の作品の海賊版も出回っていることを語り、「私は、自分の国で自分の作品すら守れないのです。そんな私が、あなたがたのために何ができるでしょう」と言って肩をすくめました。

この一件をもとにして、ストーリーを語る上で欠かしてはならない要点を挙げておきましょう。ストーリーを語る前には、あらかじめしっかり準備しておくことが重要です。しかし、ストーリーを考える前に、まずは聞き手についてよく知っておくべきです。相手の立場によって、ストーリーの伝えかたは変わってくるからです。聞き手がきちんとストーリーについてきてくれることが大切なのです。

それにしてもストーリーには、不思議な力があるようです。国王との会見で私はたいへんな過ちを犯しましたが、国王は私の物語についてきてくれました。謁見の数力月後、国王は偽造行為を取り締まる法律の施行を命じてくれたのですから。