2014年03月09日

20160223ロボット起業ブーム

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日本が産業競争力を誇る分野の一つが、産業ロボットだ。自動車や家電など、正確に大量生産する要はロボットが担っている。

産業ロボットといっても、いろんな種類がある。溶接ロボット、組立ロボット、塗装ロボット、検査ロボットなど、様々なものがある。

しかし、海の向こうシリコンバレーでは、そのロボットが医療の最前線で使われ始めているらしい。しかも、それが新しい産業として勃興しつつあるとのことだ。超高齢化社会を迎えつつある日本にとっては、とても気になる。同じアエラ2014年2月3日号から、紹介したい。

ロボット起業 米で大ブーム

SFの世界がすぐそこに

医師の代わりに診察、学校に通う、工場で人と一緒に作業する……。
米国で新しいロボットが次々と生まれている。アイデアから形へ。
研究から市場へ。米国のロボット産業が活気づいている。

深夜、入院患者の容体が変わったと米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)メディカルセンターから連絡が入った。脳外科医のポール・ヴェスパ氏は、自宅のコンピューターを立ち上げ、病室の場所を人力。「分身」を向かわせた。

「分身」とは「テレプレゼンス(遠隔存在感)・ロボット」と呼ばれる新しいロボットの一種「RP-VITA」。高さ152センチで、上部には大きめのタブレット大のスクリーンが付いている。RP-VITAは、ベッド脇に到着すると、スクリーンを患者に向ける。スクリーンにヴェスパ医師の顔が映し出され、患者は本人がそこにいるように感じることができる。

◆自宅で「診察」、指示

一方、ヴェスパ医師の自宅のパソコン、RP-VITAのカメラがとらえた患者の様子、血圧や心拍数などのデータが映し出されている。適切な処置を看護師に伝えて診察が済む場合も多い。ヴェスパ医師は言う。

「これまでは20分で終わる処置のために、往復2時間かけて病院へ戻っていましたが、それがRP-VITAのおかげでなくなりました」

医師はゆっくり静養して、翌日の勤務に備えることができる。テレプレゼンス・ロボットは、専門家が貴重な時間を有効利用するのを助ける道具として期待されている。

アメリカでは今、ロボット熱が盛り上がっている。身の回りにロボットが増えてきた。日本でも知られるお掃除ロボット「ルンバ」は、その先例。部屋の形を認識して自律走行して床を掃除した後、充電ステーションまで勝手に戻る。

最近シリコンバレーで人気製品となっているサーモスタットの「ネスト」は、住人の気配を感じ、その生活パターンを学習して自動的に最適な温度設定を行う。元ワシントン大学教授で、抜きんでた才能を持つ研究者に贈られる「マッカーサー天才賞」を受賞したロボット研究者、ヨーキー・マツオカ氏が開発に携わった。「現代のサーモスタットはロボットとAIの組み合わせ」と、マツオカ氏は言う。

ルンバやネストは、これからはごく普通の家庭にもロボットが入ってくることを感じさせるのだが、サービス分野ではロボットの進出がもっと加速化している。中でも病院はその先端だ。冒頭に挙げたRP-VITAは病院ロボットの一例でしかない。

シリコンバレーにあるエルカミーノ病院のスタッフ用サービス通路では、20台の「タグ」と呼ばれるロボットが忙しく行き来する。運んでいるのは、患者用シーツ、食事、薬品、病理標本、ゴミなど。スタッフや看護師が行き先を指定すると、タグは自動的にそれぞれの目的地へ向かう。その途中、障害物を避け、エレベーターの前で順番を待ち、自律的に乗降する。用事を済ませると、やはり自分で充電ステーションに戻り、次の指令を待つ。

300床の入院用ベッドを持つ同病院では、導入後の1年間でタグがのべ1万2700時間稼働し、検査ラボのスタッフが病理標本などを取りにいったり届けたりする回数を4712回減らした。

同病院最高管理サービス担当者のケン・キング氏によると、タグによって日常業務コストは40%に下がったという。

同病院では、医療用ロボットの利用も進んでいる。手術ロボットの「ダヴィンチ」や、放射線を腫瘍に照射する「サイバーナイフ」などだ。前者は外科医の手のブレを吸収し、後者は手術がむずかしい複雑な形状の患部を認識して処置する。入院患者が家族と話すためのテレプレゼンス・ロボットもいる。シリコンバレーならではの先進的なロボット導入といえるが、この風景は近未来の病院の姿でもあるだろう。

◆学校にテレプレゼンス

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サービス用ロボットでは、さらに多種の製品が実用化されている。植毛手術を自動的に行うロボット、農場などで鉢植えを一列に並べるロボット、太陽の動きに合わせてソーラーパネルの方向を変えるロボットなど、さまざまな業界でロボットが活躍中だ。

学校でも、免疫機能障害などで登校できない子どもが、テレプレゼンス・ロボットで通学するケースも出てきた。ヴィーゴ社は、そのために自社製品100台を全米の学校に納めたという。テレプレゼンスで通学することで、廊下を歩き回り、仲間を感じられるのが何よりの利点だ。

デジタル・ネイティブの子どもたちは、ロボットの操縦にもすぐ慣れる。ロボットと一緒に勉強することにも抵抗がないばかりか、ロボット通学生が学校の人気者になる例もあるという。ロボットは学校が買うこともあれば、病気の子どもの親が自前で人手することもある。

ロボットをこれまで導入してきた製造業の現場にも、新しいタイプのロボットが入り込んでいる。工場作業員と並んで一緒に作業する「コー・ロボット(人と共存するロボット)」と呼ばれるものだ。

これまでの産業ロボットは、自動車工場での溶接や塗装の作業を行うなど、サイズも大きく危険なため、安全柵の中に設置されてきた。一方、コー・ロボットはサイズも小さく、動きも優しい。万が一、アームが人に当たってもすぐに止まる仕組みで、危害を及ぼすことはない。既存の環境にそのまま設置できるため、とくに中小企業の製造工場が注目している。

◆資金少ない新興企業も

アメリカでこれだけ新しいロボットが出てきた背景には二つの理由がある。

一つは、ロボットの要素部品が安くなったことだ。コンピューター、センサー、ビジョンシステムなどの価格が数年前とは比べものにならないほど下がった。これで大企業の独壇場だったロボット開発に、資金の限られた新興企業も進出できるようになった。

今のロボット産業は、コンピユーター産業がメインフレームからパーソナル・コンピューターに移行し始めた時期によく例えられる。多くの起業家が出てきたことで、これまでにない新技術の開発が始まっている。まさに「ロボット起業ブーム前夜」なのである。

もうひとつの理由は、アメリカのロボットが人間の形をまねた「ヒューマノイド」でないことだ。冒頭のRP-VITAや一部のコー・ロボットが何となく人を感じさせる形状である以外は、ほとんどが丸形や箱形。
日本で開発されてきた2本脚で人間のような身体や顔を持つロボットとはほど遠い。

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しかし、ヒューマノイドにこだわらなかったからこそ、ロボット開発が花開いたともいえる。ヒューマノイド・ロボットの脚や腕を作り、バランスを取って歩かせるには、高度な技術と多大な開発コストがかかる。アメリカは、完成度や見た目よりも機能性を重視し、ロボット技術を噛み砕いた形で実用化した。

シリコンバレーの研究機関、SRIインターナショナルのロボティクス・プログラム・ディレクターのリチャード・マホーニー氏は、「ヒューマノイド・ロボットを作るのは詩を読むようなもの」とたとえる。

「人が何であるかを、ロボットで表現しようとする。人間のように振る舞い、人問のように見えることを目指しているのですが、究極的にその用途が何なのかはわからない」と言い、人間と同じように反応し、同じように動くロボットを作るには、50年はかかるとみる。

アメリカのロボット関係者も、ヒューマノイド・ロボットは大学の研究課題でしかあり得ないとよく言う。それほどに、壮大な目標なのだ。逆に言えば、アメリカではすぐにできることから手をつけ始めたということだ。

実践的なロボットの開発は、軍事用ロボットに顕著に見られる。代表的なロボット会社ボストン・ダイナミクスは、重い荷を載せて兵士の後をついていく「ビッグ・ドッグ」というロボットを開発した。これはまるで首のない馬のような奇怪な形状だ。事故後、東京電力福島第一原子力発電所に最初に入ったア
イロボット社製の「パックボット」も、小型戦車のキャタピラーに棒がついたような形だった。軍事用ロボットのそんな実践的アプローチが、現在のロボット開発に受け継がれている。

新たなロボット産業は、ロボット研究室を持つ大学の地元に集積している。スタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校のあるシリコンバレー、マサチューセッツエ科大学(MITT)のボストン、カーネギーメロン大学のピッツバーグ。デジタル技術やインターネット関連の新興企業が、シリコンバレーとボストンに集中したのと同じことが起こっている。

◆シリコンバレーの人材

シリコンバレーでロボット産業の促進を目的とするNPO「シリコンバレー・ロボティクス」には、歴史あるロボット企業と共に、社員が数人の新興企業が合計100社近く加盟している。マネーシング・ディレクターのアンドラ・キー氏はこうみている。

「現在のロボット起業は、産業用、サービス用のシステム開発と共に、家庭用ロボット分野にも広がっているようです」

同NPOがシリコンバレーで開くロボット・ブロックパーティーというイベントには、地元の40社以上がロボットを展示、昨年は約2千人が見学に来た。洗濯物を畳むロボットの粗削りなプロトタイプも展示された。

◆グーグルが一気に買収

集積地は、さらに才能を引き寄せる。スマートフォンを利用する小型のテレプレゼンス・ロボット、「ロモ」を開発したロモーティブは、2011年にシアトルで起業、ラスベガス経由で、結局シリコンバレーに落ち着いた。同社のケラー・リノードCEOは、「シリコンバレーでないと優れた人材が見つからない」と言う。

ロボット起業を支援するインフラも整い始めた。経験のない起業家のために、製造コスト計算や工場探しなど、アイデアを生産につなげる部分を支援する「アクセラレーター」と呼ばれる会社が、シリコンバレーやボストンで最近増えている。

アクセラレーターの一つ、ボストンのドラゴン・イノベーションの共同創設者スコット・ミラー氏は、アイロボットに10年間在籍し、300万台のルンバ製造の指揮を執った経験をもつ。

「大資金がなくても起業できるようになったが、ロボットは依然として難しい技術」と支援する起業家に知識を伝える。

ロボットに関心を示すシリコンバレーのベンチャー・キャピタルも増えている。昨年11月にはロボット関連の公開企業77社の株価から算出するロボット株指数(ROBO-STOX)がナスダックで発表されるなど、ロボットの存在は研究から市場へ広がっている。

ロボット株指数の創設に携わったフランク・トービー氏は、「13年はロボット業界にとってティッピング・ポイント(転換点)になった」と語る。ロボット起業が増えていたところへ、グーグルがロボット新興企業を一気に8社も買収していたことが明らかになったからだ。その上、アマゾンやDHLなどの人気企業がドローン(無人航空機)を配送に利用しようとしていることもわかった。ロボットの受容度が高まっているのだ。グーグルが買収した企業には、前述のボストン・ダイナミクスや東京大学のロボット研究室からスピンアウトしたシャフトも含まれ、今年、ネストのネスト・ラボ社も加わった。

◆災害現場でバブル操作

これまでインターネットやGPS、自律走行車などの技術を生んできた米国防高等研究計画局(DARPA)は、昨年末に「ロボティクス・チャレンジ」予選を開催した。この競技会は、福島原発事故のような災害時に、人が入り込めない危険な場所へ進入し、バルブを閉めるといった仕事を自律的に行うロボット開発推進のために行われた。

大学や企業などに所属する世界のロボット開発者たちがマイアミのカーレース場に結集、自前のロボットやソフトウエアで競った。人間が活動する環境で仕事ができることが条件で、ヒューマノイドに近いロボットが中心となった。

ドアノブを握ったり、ホースを取り付けたりするロボットたちの動きはまだまだ緩慢だったが、仕事に励むロボットの姿はまるでSF小説の一場面。だが、遠からず、こうしたロボットたちが身の回りにいる日が来るかもしれないと思わせるに十分な光景だった。