2014年03月07日

20160223IT断食

最近ITと距離を置くことで、成果を上げている企業の話をよく聞く。

ITは便利だし、上手に付き合えば、効率的だと個人的には思う。しかし、ITの呪縛にとらわれ、本末転倒になっているケースも少なくない。この記事は、ITのメリットとデメリットを計算しながら、最後は“自分の頭で考え、想像し、行動すること”が一番重要であり、成長につながると感じさせるものだ。

◆「自分もゲイ」ネットで

ITを上手に使い、人生を変えた人もいる。

昨年10月、ある区議が社民党党首選に出馬した。東京都豊島区議の石川大我さん(39)。区議が立候補したことに加え、石川さんが自身を「ゲイ」だと公言したことでも話題になった。

「ITはマイノリティーの武器なのです」

小学校5年生のとき学年がひとつ上の男子を好きになった。後から思うとそれが、初恋。以来、好きになるのは男性ばかり。なぜ自分は同性が好きなのか―。誰にも本音を打ち明けられず孤立していたという。25歳のときに家に来たパソコン。ネットに繋ぎ、同性愛者が作るサイトにたどりついた。翌月に、自分以外のゲイに初めて会えた。ひとりではないことを実感した。

20140307IT一時断食のススメ

自身でホームページを作ったときは、出身中学の後輩、それも2人から「自分もゲイです」とのメールが来た。

「同じ中学の後輩など、ずっと近くにいたのに出会えなかった。そんな人ともつながれたのはITがあったからこそです。人は一人では戦えないけど、仲間がいれば勇気を持って踏み出せるようになります。そのための武器になった」

スマホでキャリアアップした人もいる。化学メーカー勤務の45歳の男性は、会社内で営業職からの異動を希望し、社会保険労務士の資格取得を目指した。

買ったばかりのスマホで問題集のアプリを探し購入、片道20分弱の通勤時間に解き続けた。スマホは場所を取らないし、紙の問題集と違い筆記用具もいらない。間違えた問題だけを抽出して解くこともでき、効率的。半年後の試験では、合格ラインを大幅に上回る高得点で資格を得た。

「アプリがあったおかげで、すきま時間をすべて勉強時間にすることができました」

この男性は異動ができた。ITで想いがかなったのである。

◆IT一時断食のススメ

パソコン閉じて業績上げる

20140307IT一時断食のススメ2

「価値あるアナログ時間」を作るために、IT機器の使い方を見直してみませんか。
使い次第で、業績を伸ばした企業も続々…。

飲料メーカー大手のサントリーを象徴する言葉は「やってみなはれ」だ。創業者の鳥井信治郎が、新事業に乗り出す時などに使ったこの言葉は今でもサントリーに息づく。しかし、昨今その精神が失われてはいないか。社内にはそういった危機感があった。

「パソコンで黙々と仕事をすると、会議の資料も中身より体裁にこだわるパワポ(パワーポイント)病も多かった。それにCC(カーボンコピー)機能を使ったメールを送ることで上司に報告したつもりになることも。つまりフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションが、おろそかになっていたのです」

◆佐治社長の直言も

サントリーホールディングス執行役員の下條泰利さんは2年ほど前の会社の状況をそう振り返る。そんな折の2012年10月、サントリーHDの佐治信忠社長は、社内のイントラネットで全社員向けに、こうメッセージを送った。

「果たして皆さんは、ITを上手に取り入れ、うまく使いこなしているでしょうか。逆に使われてしまっている、あるいは、ITのために仕事が阻害されてしまっているというようなことはないでしょうか。自分自身の仕事の中身を棚卸しして、じっくりと検証してみる必要があるのです」

◆パソコン閉じ現場へ

社内ではそういった危機感は共有されており、下條さんらが中心になってワークスタイルの変革を検討していた。そして、12年12月に「キックオフ宣言」として次のような具体策がまとめられた。

毎週水曜日の正午~午後3時までを「プレミアムタイム」として原則的にパソコンを閉じ、ITとの接触を断つ/原則、メールにCCを設定しない/メールをそのまま転送しない、などだ。ITを活用するためにもドラスティックな対策が必要だったと下條さん。

「当初は“何をしたらいいの”“残業が増えるだけ”といったネガティブな反応が多かったですが、普段行けない『現場』に行ったり、部署の垣根を超えて会議を行ったりと有効活用の例も増えました」

商品企画のセクションでは、シニア層を対象とする商品を企画する際、マーケティング担当者だけでなく、研究開発や素材の担当者も含めて、東京・巣鴨の「現場」でシニアの人にインタビュー調査を実施したという。

下條さんはこう話す。

「企業にとってはITとの適切な距離感が重要です。ここに気づくかどうかが、今後の勝負の分かれ目になるのではないでしょうか」

この改革がサントリーの将来にプラスになるとの自負がある。

◆IT企業がIT断食

IT企業なのにもかかわらず、「IT断食」を実践している会社もある。大企業・組織向けにソフトウェアを販売する「ドリーム・アーツ」だ。11年11月、会議へのパソコンやスマホなどのIT機器の持ち込みを禁止。

さらにパワーポイントでの資料作成は許されず、社内CCメールも使用してはいけない。13年6月には営業部員に貸与していたパソコンの返却を命じた。企画書や見積書など、パソコンが必要な業務はすべて支援する部門が担当することになったのだ。

これらに対し当初は当然のことながら、社員から強い反発の声があがった。IT企業に就職したのに、との声もあった。

だが、山本孝昭社長は断行したのだ。

「人に会ったり、自分で考えたりするような『価値あるアナログ時間』を増やす目的で、効率化のためにITを導入した。そのはずなのに、多くの企業や社員は膨大なメールをさばいたり、装飾に凝った資料を作ったりすることで逆に時間が奪われ、仕事の質も下がっているのです。我々こそITに使われるのではなく、使いこなすようにならないといけないのです」

◆パソコン撤去で契約増

パソコンを撤去後の半年で、営業訪問件数は40件から250件へと6倍以上になり、契約件数も大幅に増え、売り上げの見込みも3倍以上になるなど成果はすぐに出た。

先進的な取り組みをする企業は、他にもある。

LED照明や収納ケースなどの人気商品で知られるアイリスオーヤマだ。職場の机からパソコンを取り上げ、フロア中央の「島」に集約したのだ。「デスクは頭で考える仕事をする場、パソコン島はデスクでまとめた内容をアウトプットする作業の場」と切り離した。

デスクにパソコンがあるのは当たり前だった。だが、社内の研修会である講師が「パソコン使用中には脳があまり働かない」との話を幹部社員にした。

このことを契機に、07年に試験的に導入し、09年には全社で切り替えが完了した。

◆メールを電話にしたら

商品企画部では、パソコンとうまく付き合うことで、さっそく効果が出た。ネット上に出回る情報をヒントに企画を立ててしまうと、競合他社と差別化できない。そこで、頭で考えたところ―。

今では、売り上げに占める新商品(発売3年以内の商品)のの割合は、割合は、08年の41%から、13年は56%になり、ヒットする新商品が増えた。

収納インテリア部の畠奈津子さん(36)は、在庫管理でパソコンが必須のため、例外的に机のパソコンは残ったが、1時間のうち15分間はパソコンでの作業ができない45分ルールは適用された。その時間を使って、これまではメールで済ませていた連絡を電話に変えてみた。一方通行のメールと違って、電話では「会話」ができた。

そしてセールス現場や工場とのコミュニケーションが密になって細やかな対応をするようになった結果、
3年前には懸念事項だった8千万円分ものインテリアの在庫を3千万円までに縮小できた。

「これまでは、パソコンしか見ていませんでした。仕事は、人間と人間がするもの。それを思い出させてもらういい機会になりました」

購買部の玉手寿苗さん(39)はこう言う。

「いつでもパソコンが使えた時は、資料作りやメールもパソコンに向かってから考え始めていましたが、今は重要なポイントを頭の中でまとめてから作業するようになって、スピードも中身も充実しました」

これまでは年間の残業限度である320時間ぎりぎりまで働いていたが、12年は270時間にまで減った。社外へ行く機会も増え商談の回数も1.5倍になったという。

そんな玉手さんは仕事の現場でパソコンの使用を制限したことで、プライベートでのITとの付き合い方も変わってきた。

以前は夫から「ケータイ取り上げたら生きていけないんじゃない?」と、からかわれるほどのスマホ中毒だった。

「買い物もよくしていました。ネットで見たら欲しくなってしまって、特に家電はお蔵入りが多い。ズボンプレッサーも、年に数回しか使っていません…」

調べものをしたついでに関連のリンクを見たり、特に必要もないサイトを閲覧したりすることも多かったという玉手さん。今では何気なくスマホをいじることもなくなって、時間を無駄にしなくなったという。

パソコンの使用について意識が高まった今では、会社が使用方法を制限することはなくなった。しかし、パソコンとデスクの分離の効果を実感した社員は、それぞれの部署のスタイルに合わせて効果的にITを使いこなしている。