2013年09月03日

20160222亀倉雄策

この頃、社内外の広告賞を取りまくり、飛ぶ鳥落とす勢いのHさんという広告クリエイターがいた。

当時のリクルートは、クリエイティブ・コントロール課(CC課)という部署が、制作マンの育成教育を行っていた。社内の優秀な先輩クリエイター主催の勉強会、電通博報堂等大手広告代理店の有名クリエイターを招いての勉強会など、非常に刺激的で充実していた。

こういった体制は、当時の役員に東京オリンピックのポスター(※画像)を制作した日本を代表するグラフィックデザイナー、亀倉雄策氏がいたことも大きかったと思う。亀倉さんは、制作部の散らかった現場を見て、「こんな汚い環境で、良いクリエイティブが作れるか!」と一喝したエピソードを持つ硬骨漢だった。

Hさんとは、新人クリエイティブ研修で出会った。講師として熱弁をふるうHさんの素晴らしい講義内容に、我々新人は感動した。この出会いを大切にしたいと思い、講義後は自分の広告を社内便で頻繁に送り、内線電話で具体的なアドバイスを頂いた。

そういったレクチャーの中で、特に記憶に残っているのが“世界観”というキーワーだ。

文字とビジュアルが作り出す広告全体の雰囲気が、ターゲットの心に突き刺さる。例えば、工場で働く人々の集合写真と、そこで働く人々の価値観を代表するキャッチコピーがある。六本木ヒルズで働きたい人には響かなくても、自宅から通えて心地よい職場を望む人に響けば良い。

特に求人広告の場合、経済行為としてメッセージの訴求と採用パフォーマンスがリアルに求められるので、広告の世界観は応募者と採用者のマッチングに大きな影響を及ぼす。

今回の広告設計(スナックの求人広告だが…)にあたっても、大事にしたのはこの“世界観”だ。

ターゲットは女性で、川越市駅近辺に住み、年齢は30~40歳、独身かバツ一。平日18時まで仕事をし、週2か3で、その後アルバイト収入を得たい。何よりも、心地良い雰囲気で働きたい。そんな感じだろうか。

上昇志向が強い都心型ではなく、地元密着型のほのぼの感を紙面で出したい。そう考えたら、なぜか日本昔話のビジュアルが頭に浮かんできた(笑)。

A4の9分の1のスペース。他の広告は、全て写植打ちの文字だけ。その中で全面イラストでいくというのは勇気がいったが、勝算はあると思った。

コピーの天才仲畑貴志氏も言っている。「広告は、ケンカだ」と。

イラスト入稿のため、一発勝負。カウンターの中で、林家ぺーそっくりのスナックのママが、いそいそと肉じゃがを作っている。その斜め前には、中年男性客が一人。その背中には、哀愁が漂っている。そして左上には、「岡山生まれで肉じゃがが得意なママが、貴方をお待ちしています。」の手書きキャッチ1本。右下には時給と住所、連絡先。

チラシ会社の連絡先を聞き、イラストを発送した。「あとは、なるようになる!」、正直そんな気持ちだった。

若者の特権は、経験がない分計算ができないが、このような挑戦的行動、もしくは暴挙をできるところではないだろうか。

そうはいっても、不安におののく日々がしばらく続いた…。

 

つづく