2013年09月01日

20160222スナックイメージ

リクルート入社一年目のある日のこと、クライアントのO社長から会社に電話があった。

「実は、ちょっとお願いしたいことがあるんだが…」

O社長は、埼玉県内に展開するスーパーのオーナー。リクルートの媒体に出稿はして頂いているが、その時期に媒体は進行していない。とりあへず営業担当で同期のSに聞くと、オーナーがよく行く川越市駅そばのスナックの求人がうまくいっていないらしい…。いやな予感がしたが、とりあへずSと一緒にそのスナックに足を運ぶことになった。

扉を開けると、満面の笑みでO社長がボックス席に座っていた。

「いや~、よく来てくれた。今日は、リラックスしてくれ。楽しく飲もう」

商談の時には決して見せない明るい表情で、O社長はどんどんビールを頼む。なぜか鰻重も出前で取ってくれた。ひとしきり雑談し、こちらも水割を飲んで歌なども歌っていい気分になっている時、社長がそろりと本題を切り出した。

「実はね、ここのスナックのママが人が採れないと困っているんだ。そこで、是非とも君達の力を貸して欲しいと思ってね」

来た!やっぱりそう来たか!ふと横のSを見ると、アカデミー賞なみの演技で驚いた表情をしている。事前に話はついていたに違いない。

「大丈夫です。何でも仰って下さい」

意に反して、すらすらと調子の良い台詞が口から出た。特上の鰻重を既に胃に収めている以上、こちらに拒否権はない。

「ほら、ここのママは今一人でやっているだろ。本当はアルバイトを雇いたいんだが、全然採れなくて困ってるんだよ」

カウンターに目を向けると、そこには時代遅れの茶髪のカーリーヘアをした、林家ぺーそっくりの女性がいた。

「求人チラシを、毎週地元紙に出してはいるらしいんだよ。でも、効果が全くないらしいんだ」

この期に及んで、今回の話はそう簡単なものではないことがだんだんわかってきた。当時のリクルートは、求人媒体で圧倒的なブランド力があった。リクルートに載せれば、多少広告がお粗末でもある程度の効果はあった。しかし、今回の話は、リクルートの媒体とは離れた所での勝負だ。

もし失敗すれば、力のない奴だと思われる…。

入社一年目の新人に、凄いプレッシャーが襲いかかってきた。絶対に失敗はできない。全力を尽くすしかない。

帰り道、思案に明け暮れる私の横で、なぜかSの表情は晴れ晴れとしていた。

 

つづく