2015年03月25日

20150324ヒトラー

 

「今日、文筆にたずさわる騎士やうぬぼれ屋はみんな、次のことをよく覚えておくがいい。

すなわち、この世界における最も偉大な革命は、決してガチョウの羽ペン導かれたものでないのだ!ということを。

そうだ。ペンはつねに革命を理論的に基礎づけることだけが残されている。だが、宗教的、政治的方法での偉大な歴史的なだれを起した力は、永遠の昔から語られることばの魔力だけだった。

大勢の民衆は何よりもまず、つねに演説の力のみが土台となっている。

そして偉大な運動は全て大衆運動であり、人間的情熱と精神的感受性の火山の爆発であり、困窮の残忍な女神によって扇動されたか、大衆のもとに投げ込まれた言葉の放火用たいまつによってかきたてられたからであり、美を論ずる文士やサロン英雄のレモン水のような心情吐露によってではないのである」

『わが闘争』(アドルフ・ヒトラー 平野一郎・将積茂訳)より

 

歴史を動かしたプレゼンテーターとして真っ先に挙がるのは、アドルフ・ヒトラーだろう。

ご存知の通り、ヒトラーはその演説の上手さとラジオやポスターといったメディアを最大限活用した大衆操作でドイツ国民を扇動し、第一次世界大戦後の屈辱的なベルサイユ条約で不満が鬱積していたドイツ国民の心を掴んだ。また突撃隊を構築し権力闘争にも勝ち、独裁国家を造り上げた。ここでは、そんなヒトラーのプレゼンテーション手法に絞って様々な切り口で考察したい。

ヒトラーの演説の論法の一つは、まず今のドイツ国家の現状を「情けない状態」と攻撃し、聞き手の共感を得る。そしてヨーロッパの歴史的強国としてのドイツ再建に向けて、「偉大なる国家は、その力を有することを証明する必要がある」とプライドをゆさぶり、最後に困窮している人々へ「全ての労働者に職とパンを!」ととどめを刺す。時間は、人間の正常な判断力が鈍る夕刻が多い。ロジック、ポーズ、時刻設定、照明等が全て周到に準備された一大戯曲だ。

ヒトラーは、最初は静かに語りかけ、次第に情熱的になっていく。特にハイライトシーンのオーバーアクションは、迫力満点だ。

大衆がヒトラーの演説に呼応する反応を見せると、逆に落ち着いた声で語りかけるように話した。ハイライトシーンでは、オーバーアクション気味に身振り手振りが激しくなり、その緩急のリズムが絶妙だ。

また有名な話だが、ヒトラーは大衆の前で演説する前に鏡の前で何度もポーズの練習をした。以下はその時の写真である。こうやってみると、政治家といえどももはや俳優と同じだ。ヒトラーは参加者が熱狂する演説会場を後にした時、「大衆は、私が何を語ったかを覚えてはいない。どう語ったかを見ているのだ」と語ったと言われている。

ヒトラー演説練習1

ヒトラー演説練習2

ヒトラー演説練習3

ヒトラー演説練習4

ヒトラー演説練習5

ヒトラー演説練習6

こうやって見ると、影響力を行使するプレゼンテーターは独自の方法で自己研鑽していることがよくわかる。ヒトラーの場合、ヨーゼフ・ゲッペルスというプロパガンダの天才がそばにいたことも大きい。ちなみにアドルフは「高貴な狼」という意味らしいが、戦後はこの同じ名前の人は改名する人が多かったらしい。

またナチスが行った宣伝クリエイティブのエッセンスは、企画書制作にも十分生かせる内容が豊富にある。博物館に展示されている当時のポスターなどは、ヒントの宝庫だ。

個人的には、ヒトラーの演説はドイツ版田中角栄といった風に感じる。ダミ声、拳を振り上げるポーズ、敵の罵倒と大衆迎合フレーズの連呼という、知的スマートさとはほど遠いスタイルだ。そこにケネディやオバマと素養や育ちの違いを感じるのは、自分だけだろうか。