2014年11月16日

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現在のマーケティングの大きなポイントは、“拡散”だ。

そのプラットフォームは、一人一人が情報発信者になれ、かつ共感性の高いトピックスは急激に拡散するSNSだ。

それは通常の広告費を大幅に上回るパフォーマンスを発揮することも多く、経済効果は無視できない。

だからこそ、そのメカニズムは研究に値する。

米国メディア新世紀
SNSで激変 決め手は拡散力

「ネコの動画を大量に流しているようなサイトにそんな価値があるのか」

8月半ば、新興ネットメディアの米バズフィードが、著名ベンチャーキャピタルであるアンドリーセン・ホロウィッツから5000万ドルを調達した際、バズフィードの企業価値を8億5000万ドル(約870億円)と算したと伝えられると、全米のメディアが大騒ぎとなった。

これは米トリビューンなど米中堅紙の時価総額をしのぐ規模とされる。誕生からわずか8年のバズィードは今や月間サイト訪問者数が1.3億人を突破しており、既存メディアを脅かす存在となっている。

日本の既存メディアでは紙かデジタルかで議論されている最中だが、米国ではすでにネットで記事を先に流す「デジタルファースト」が定着して久しい。今や大手紙の記者でも「まずはネットに速報を書いてから紙の記事を書く」(米大手紙幹部)のが当たり前になっている。

こうした中、存在感を増しているのが紙を持たない新興ネットメディアだ。日本でよく知られるのはハフィントンポストくらいだが、近年新たなメディアが続々と誕生。元ウォールストリートージャーナル看板記者ウォルター・モスバーグ氏が「Re/code」を立ち上げるなど、著名な記者や編集者が新興メディアに移籍するケースも少なくない。

◆SNS経由で記事拡散照準はミレニアル世代

中でも、バズフィードの注目度は圧倒的に高い。「ベビーブーマーの次に人口が多く、広告主がターゲットとしている(1980年代から2000年代初頭生まれの)ミレニアル世代の圧倒的な支持を得ており、投資家からの関心も高い」(メディア業界に関するサイト「ニユースノミクス」を運営するケンードクター氏)のが理由の一つだ。

ド派手な写真や興味をそそる見出しに斬新なレイアウト。バズフィードのサイトは、紙媒体の延長のような既存ニユースメディアのサイトとは似ても似つかない。サイト上には「カワイイ」「爆笑」などの感情項目を設け、読者がそのときの気分で項目を選び記事を読むこともできる。

ネコの動画やクイズで人気に火がついたが、その名が短期間で知れ渡るようになった背景にはツイッターやフェイスブックといったSNS(交流サイト)の普及がある。

同社は創業者のジョナーペレッティCEO(量局経営責任者)の「どういった記事がネット上で共有されやすいのか」といった興味から始まった。社内にデータサイェンティストを抱え、独自のアルゴリズム(計算方式)を採用。記事がどの程度拡散するかを事前に検証するなど、拡散することを目的に記事を作成・配信している。

結果、紙離れしていたミレニアル世代が飛びついた。今やSNSはネット記事をより多くの読者に読んでもらうために欠かせないツールだ。「かつては直接サイトに来たり、検索結果から飛んできたりすることが多かったが、今はSNSを含めて3分の1ずつ程度。今後、SNS経由は一段と増えるのではないか」と、ある米大手紙の幹部は話す。

「拡散(バイラル)力」をテコに若年層利用者を増やすハイラルメディアはバズフィードだけではない。

ニューヨークーシリコンアレーの情報サイトから始まったビジネスインサイダーやバイスなども広告主や投資家から熱い視線を集めている。

◆「記事が届いていない」NYタイムズの焦燥感
 
一方、従来の新聞や雑誌業界には暗雲が垂れ込めている。ニューヨークの地下鉄に乗っていても、新聞や雑誌を読んでいる人はまずいない。ほとんどがスマートフォン画面を見つめており、時折文庫本を読んでいる乗客を見掛ける程度だ。

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実際、紙媒体の販売部数は下落し続けている。ただ米国の場合、新聞や雑誌の定期購読料がとてつもなく安いことから定期購読者が多く、主に店頭販売での収入の縮小は大きな痛手にはならない。

その代わり、米メディアの収入の約7割を占める広告収入は深刻だ。「紙媒体だけで見ると今年に入ってから前年同期比8%減っている。新聞の広告収入は7年連続減少だ。紙媒体の広告収入の落ち込みをネット版で補えていない」(ニュースノミクスのドクター氏)という。

こうした中、今年5月にバズフィードによってリーグされた米ニューヨークータイムズ紙の社内向け極秘リポートが米国のメディア業界に衝撃を与えている。

「イノベーションリポート」と銘打たれた96ページに上るリポートでは、社長の息子であるA・G・サルツバーガー氏率いる10人のチームが米国メディアのデジタル戦略について、社内外の数百人以上を取材。新興メディアの躍進と自社の置かれた状況などを分析し、「われわれの報道はどこよりも深く広くスマートかつ魅力的で、競合他社に大きな差をつけている。しかし、すばらしい報道を読者に届けるといヽ7点においては競合に大きく水をあけられている」との問題を提起。同社のデジタル事業改革の必要性を訴えた。

NYタイムズといえば全米随一の名門紙である。が、その内実は厳しい。ネット版の訪問者数は長らく低迷しており、ハフィントンポストやバズフィードを大きく下回っているのだ。リポートは理由の一つとして、NYタイムズでは記事を配信した時点で仕事は終わるが、競合では「ニュースは配信してからが勝負」といケ考えが行き届いている点を挙げている。他社はSNSでの拡散に加え、フォーラムやイベント開催コミュニティ作りなど一つのニュースを軸に多様な仕掛けを施しているのである。

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ただし、このままネットメディアの台頭が続き既存メディアが後退し続けるとは限らない。近年はブランドカをテコに記事を有料化したり、イベントを開催したり、広告以外の収入源を模索するなどメディアのビジネスモデルの多様化が進んでいる。大手メディアが今後、記事を配信した後の読者開拓に取り組むようになれば、新たな読者を引き付ける可能性も十分にある。

一方、伸び盛りのハイラル系メディアも安泰ではない。たとえば、誘客をフェイスブックなど第三者に頼ることは自社サイトを直接訪れるファン作りにはつながらない。日々新たなメディアが誕生する中、差別化も急務だ。バズフィードは人気政治コラムニストやピュリッツァー賞受賞者を迎えるなど、政治や調査報道といった分野の強化に動き出した。アンドリーセンから調達した資金を使ってキッチンスタジオを開設し、料理コンテンツも提供する計画だ。

メディア業界はまさに戦国時代を迎えているが「メディアの数が増える一方、1人の手持ちの時間は1日24時間が上限であるため、人々がメディアに接する時間を増やすのは容易ではない」(米国のメディア業界に詳しい東京工芸大学専任講師の茂木崇氏)。近年はSNSが勝敗を分けてきたが、各社はすでに次を見据えている。