2014年11月15日

20160227本屋

20141115出版社生き残り代1

出版社が所有している知見やクリエイティブ力をマネタイズする領域は、何も紙に限る必要はない。そういった視点で、新しい出版社の経営スタイルを実現しているユニークな事例が以下の記事だ。

自分の就職活動時期を振り返ってみると、出版社には数多くの優秀な学生が就職していった。確かに本好きという共通点はあったが、総じてクリエイティブなセンスを持ち、知的レベルは高かった。

今こそ、その能力を発揮すべき時だと思う。多角化やインターネットを活用した双方向コミュニケーションでの顧客の囲い込み等、できることは無限にある。

紙では稼げない進化する出版社生き残りの一手

その店は、東京都世田谷区の閑静な住宅街の1画にある。木造の落ち着いたたたずまいで、店内では天然酵母を使った焼きたてパンも販売されている。昼時には、幼い子どもを連れて食事を楽しむ母親たちなどでにぎわう、地元でも人気のダイニングカフェだ。運営しているのは、実は出版社である。

20151115椎出版社代2

バイクやサーフィンなど趣味の雑誌を刊行している椎出版社。2013年度には、雑誌、書籍、ムックなど過去量局の504点を発行した同社だが、この出版事業に加えて力を入れてぃるのが、飲食やゴルフ用品販売などの店舗運営、建築デザイン、イベントプロモーション、ブランドコンサルティングなどの事業だ。冒頭のダイニングカフェ「用賀倶楽部」の運営もその一つ。「われわれはメディアを待った企画会社。『for tasty life(味わいのある生活のために)』という理念を伝えるためなら、紙媒体にとどまる必要はない」と角謙二社長は言う。

出版以外の売上比率は、08年度の6.3%(4.6億円)から13年度は14.2%(11億円)に拡大した。ここ数年は出版事業が減収傾向にあるものの、新規事業の貢献で全社売上局は03年度の43億円から12年度の83億円まで右肩上がりだ。

すべての事業は雑誌から派生したものだ。たとえば、建築デザインを手掛ける「カリフォルニアエ務店」は、米国西海岸のライフスタイルを提案する雑誌『ライトニング』の読者にカリフォルニア風の住まいを提供する。同様のテイストを求める大手デベロッパーから商業施設の内装デザインの受注も増え、売り上げは年率30%以上の伸長を見せており、利益貢献度も拡大している。

紙媒体以外の事業展開の原点となったのは、1986年に開催した、バイク雑誌『ライダースクラブ』100号記念の読者イベントだった。

「泊まりがけのイベントで、貴重なバイクレース映像の上映など、紙媒体でできない内容を詰め込んだ結果、100名以上集まった参加者に好評だった」(角社長)。同時期には、100号記念の特製スタジアムジャンパーの製作販売もした。「日本で一番のスタジャンを作ろう」と素材や細部のデザインにこだわり抜いた結果、販売価格が4万8000円にまで上がってしまったが、誌面に掲載した2日後には100着が完売し、追加生産した200着もすぐに売り切れたという。

こうした経験から、雑誌が提案する価値観に思い入れを持つ読者のために、幅広く事業を広げていった。現在では、同社が刊行するほとんどの雑誌は定期的な読者イベントを実施している。イベントは編集部や関係部署など自分たちで企画・運営し、外部業者を使うことは少ない。編集者と読者の貴重な接点としても機能している。

「紙媒体を持っていることに加え、店舗やイベントの運営ノウハウもある。通常の企画会社はこうした部分を外部委託することが多いが、社内ですべてを手掛けられるのが強み」船越令子・事業開発本部部長)。推出版社では現在、通常の誌面広告に加え、ムック製作、イベント運営、飲食店の店内を使ったプロモーションなど、広告主への立体的なプロモーション提案も強化している。運営するカフエ「渋谷シティラウンジ」では、店内をプロモーション媒体として提供。食品や消費材メーカー、地方公共団体など、多くの広告主が販促イベントを実施している。

◆雑誌の強みを生かしたアパレルECを育成

96年をピークに、現在も縮小の一途をたどっている出版市場。

特に雑誌は休刊点数が創刊点数を上回り、販売も広告も右下がり。多くの出版社が苦境に立たされており、それは大手出版社も例外ではない。数多くの雑誌や書籍、『ワンピース』などコミックのヒット作品を持つ集英社でさえ減収が続いている。

そんな中、雑誌の強みを生かした新事業として同社が育成中なのが、アパレル通販サイト(EC)「FLAGSHOP」だ。「アパレルECは成長産業であると同時に、ファッション誌との親和性が高い。雑誌はセグメント化された結び付きの強い読者を持っているし、商品撮影には雑誌のスタイリストやモデルを活用できる」(アパレルEC事業を担当する小林桂取締役)。

 
「FLAGSHOP」は、自社の女性誌6誌と連携。サイト内に各誌のツンヨップインショップ゛を設け、雑誌掲載商品のほか、ウェブ限定商品も販売している。雑誌の中でも30代女性向けの『リー』と50歳前後女性向けの『エクラ』では、特にECサイトとの漣携を強化しており、毎号通販商品を紹介するページを設けている。「通常の雑誌のページと通販用のページは作り方がまったく異なる。商品をわかりやすく見せるノウハウが必要だが、通販カタログと同じになってもいけない」(小林取締役)ため、編集部とECサイトの事業部が協働しながら、読者をECサイトヘ誘導している。

取り扱う商品は、アパレルやECの経験を持つバイヤーが選定・調達。また、雑誌発のオリジナル商品の品ぞろえも拡充しており、現在ブランド別売り上げの上位はこうしたオリジナルブランドが占めている。

07年の立ち上げ以来、順調に売り上げを伸ばしており、今15年5月期は45億~50億円と前期比3割以上の増収を見込む。現在の会員数は54万。「収益はまだトントン」(小林取締役)だが、数年後には全社売上高の10%程度、約100億円の売り上げを目指す。

横出版社、集英社が展開する新事業は、縮小市場で生き残りを懸ける出版社の新しい方向性を示している。