2014年11月14日

20160227電子書籍

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本を読まなくなった時代。一方で急激に普及するスマートフォン。

書籍ビジネスは、今後どういう形態に移行していくのか。

電子書籍の8割を占めるコミックは、方向性の大きなヒントだと感じる。

電子辞書は出版不況の出口になるか

電子書籍で7万部のダウンロード販売、と聞けば中ヒットぐらいのイメージか。ただし書名が「竜馬がゆく」だとすればどうだっただろう。言わずと知れた司馬遼太郎氏の代表作で、紙の書籍の累計発行部数は約2500万。文庫版も毎年増刷されているが、昨年夏の電子版の発売時、「一過性の話題づくり」と切り捨てた業界関係者も少なくなかった。が、ふたを開けてみれば同時期の文庫版発売の数倍の規模になった。

新聞業界と同様、いやそれ以上に斜陽と言われて久しい出版業界。その中で電子書籍が倍々ゲームの高成長を続けている。映像化などの特殊要因がないのに『竜馬がゆく』が売れたことについて、文芸春秋の吉永龍太・電子書籍編集部長は、かつて紙の本を所有したり、借りて読んだりした経験のある読者が戻ってきたと推測している。「電子書籍は収納に場所を取らない。品切れがないし、読みたいと思ったときに注文して、家でもどこでもその場で読める」(吉永氏)。同社は今後、新刊は原則として紙と電子の同時刊行とすべく、体制を整備中だ。

◆コミックが火付け役活字にも電子が広がる

出版科学研究所の調査によると、書籍と雑誌を合わせた紙の本の市場規模は2013年で1兆6823億円。9年連続の減少で、ピークの1996年(2兆6563億円)の約6割まで縮小してしまった。

一方、電子書籍(単行本と雑誌の両形態)は13年度に1013億円と大台を突破(インプレス総合研究所調べ)、右肩上がりが続く。

牽引するのはコミックだ。スマートフォンが普及する以前、携帯電話の主流が「ガラケー」だった時代から読者を獲得しており、現在でも電子書籍全体の約8割を占める。

スマホ普及とともに、小説やライトノベルなどのテキスト(活字)コンテンツの読者も増え、出版各社の業績にも如実に反映されている。

講談社の前13年11月期決算は19年ぶりの増収増益。諌出創氏のコミック『進撃の巨人』が全体を牽引する中、電子書籍などデジタル分野も売上局五十数億円と、前期(27億円)から倍増した。同社は「テキストものは電子書籍では読みにくいともいわれたが、要は読者の慣れの問題だったのでは」と分析している。

新潮社では、今年4月に電子版の配信を始めた塩野七生氏の『ローマ人の物語』が好調。柴田静也開発部長は「ツイッターなどのSNS(ソーシヤルーネットワーキングーサービス)で話題になり需要が急増した際にも、電子書籍なら在庫リスクなしに販売を拡大できる」と話す。

倍々ゲームが永遠に続くわけはない。が、業界が。隠し球として期待するのが、まだ「電子化NG」のままの多くの著名作家陣だ。ベストセラー作家の村上春樹氏や東野圭吾氏、漫画家の井上雄彦氏らの作品は国内での電子化が実現していない。

「未知のIT技術で怖い、コピーされるのが嫌だ、紙だけで十分稼げる、など作家により理由はさまざまだが、許諾されれば電子マーケットはさらに広がるはずだ」(出版大手)。

◆雑誌は電子に向かないというのも神話だった

単行本に加えて、雑誌でも電子版の需要を見据えた動きが盛んだ。

集英社は先月、発行部数270万の看板コミック誌『週刊少年ジャンプ』の電子化に踏み切った。毎週月曜日の朝5時に最新号が配信され、スマホ、タブレット向けの専用アプリ「少年ジャンプ十(プラス)」やパソコンで読むことができる。

電車内でコミック誌を読む人が少なくなった昨今、一度離れた若者層が戻ってくるのか、注目される。
 
権利関係が複雑で電子化には向かないといわれていたファッション誌や情報誌でも、デジタル配信が本格化してきた。同一ページ上にカメラマンやライター、モデルなど多くの権利者が存在するため、事前に許可を取らないと表紙モデルが白抜きになるなど、内容以前に商品になっていない例もまだ散見されるものの、電子版のみの雑誌も増えてきた。

講談社が近く配信を始める電子版男性ファッションーライフスタイル誌も、最初から電子版を作る「デジタルファースト」での作成だ。9月の人事異動でもデジタル部門の雑誌担当の人員を増強した。「雑誌の電子版を充実させるため、体制を整えた」としている。

◆豊作貧乏と販売独占急拡大の陰の不安

ただ、電子書籍の拡大を出版不況の出目にするためには、越えなければならないハードルも多い。まず一つ目が、紙と電子の価格差だ。

製本コストや流通コストを加味すれば、まったく同じ内容の本ならば紙より電子のほうが割安であって当たり前、と消費者の連想は働く。まして、紙の本と違って再販制度が適用されない電子書籍は値付けが自由に行われている。売れない本ほどダンピングされるのではないかとの懸念は出版社側に根強くある。

今のところ、電子書籍の値付けは紙の本と同額から2~3割の値引きにとどまることが多い。しかし、電子書店では販促のためにさらに大幅値下げを行うセールが頻繁に行われており、実勢価格はもっと安い。

紙の本の再販制度が見直されない保証はなく、将来的に単価が電子版基準となり、価格破壊につながる可能性もある。

また、二つ目の大きな不安要素は、紙の本の販売と比較にならないほど、電子書籍の販売は寡占が進みやすい構造にあることだ。

日本に「電子書籍元年」がようやく訪れたのは、12年10月にアマゾンの電子書店「キンドルストア」が始まってからだといわれる。

紙の書籍を扱うネット書店でもすでに最大手のアマゾンは、一つのサイトで紙と電子の双方を買える便利さで多くの読者を電子書籍に呼び込んだ。出版大手各社の電子書籍販売のうち、アマゾン経由の割合はおおむね5割前後とみられ、ほかの電子書店を大きく引き離している。このため、アマゾンが販売力をテコに出版社側に不利な販売条件を押し付ける可能性が取りざたされてきた。

実際、アマゾンは今夏、出版社に対して書籍の電子化の比率やエラーの発生率など多角的な評価基準を定め、基準に照らして優れた成績の出版社の電子書籍を優先的に紹介するシステムを導入。このことが一方的な「格付け」ではないかと一部で論議を呼んだ。

「紙の本の販売でも、卸である大手取次は出版社を格付けしている。通常の商行為だ」(出版大手)との冷静な声の一方、「アマゾンは文化を担保する出版の役割に関心がない。独り勝ちで影響力が強まれば、出版文化の先細りを招きかねない」(別な大手)と神経質な見方もある。

電子書店でアマゾンのキンドルストアを追うのは楽天koboで、こちらも出版の。文化性々に大きく配慮してくれるかは未知数だ。

◆対アマゾン意識するKADOKAWA

 
そうした寡占状況にくさびを打ち込むべく、出版社自らが電子書店事業に乗り出したケースもある。KADOKAWA・DWANGO傘下の電子書店「BOOK☆WALKER(ブックウォーカー)」だ。

自社も含めて400社近い出版社から作品が集まっている。「コンテンツを中心に据えたプラットフォームを自前で持っておく必要があると考えている」と同社は説明。今後、特定の出版社とアマソンとの関係が悪化した場合には、助け舟を出す形を取りながら、アマゾンとの交渉を有利に進める有効な手札になるかもしれない。

「世界一の顧客志向」を掲げ、紙でも電子でも存在感を強めるアマゾン。出版各社とアマゾンは、キンドルストアを通じてより多くの電子書籍を売ろうとする最大の目的が共通してはいるか、水面下では販売条件をめぐI激しい駆け引きが行われている。

今後、コミックの人気作品などコンテンツを握る出版社と深刻な対立が起きた場合には、商品の引き揚げが現実のものとなる事態も予想される。両者の危うい綱引きで今のところ保たれているように見える均衡は、いつ崩れないとも限らない。

年々縮小が進む出版市場の中で、急成長を見せる電子書籍分野にかける出版業界の期待は大きい。ようやくビジネスとして成り立つ規模にはなったが、立つ地盤はまだ脆弱だ。出版不況を乗り越える。解になるのか、これからが正念場になる。