2014年11月13日

20160303読売新聞

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かつては4大メディア(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の主役を張っていた新聞。

世界でも稀な宅配制度に支えられ、日本人の教養力の向上にも間違いなく貢献していた新聞が、今大きな岐路に立たされている。

海の向こうアメリカでも、名門新聞や名門雑誌が苦境に立たされている。

日本の新聞は、窮状を脱することはできるのか。

そこには、文化的社会インフラがどう変わるかというテーマもはらんでいる。

決算小康だが、販売は不安?

朝日新聞の従軍慰安婦報道や福朝島第一原子刀発電所の吉田昌郎所長の聴取結果書をめぐる訂正問題は、社長の引責問題に発展した。これに、雑誌のほか読売新聞、産経新聞も批判キャンペーンを展開するなど異例の論争が進んでいる。

対照的に、経営に関しては各社とも「なぎ」の状態にある。主要紙の2013年度決算は、減収ながら黒
字を確保した。(左回図)。リーマンショック、東日本大震災を受けて大幅な赤字決算が相次ぎ、経営破綻や業界再編がささやかれた頃とは様変わりだ。長く低迷が続いてきた新聞経営が底入れしたのだろうか。

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業界最大手の読売新聞社のグループ本社、東京、大阪、西部の各発行本社に読売巨人軍、中央公論新社を加えた基幹6社の売上高は4174億円(前年度比2・7%減)、当期純利益は233億円(同38・8%増)だった。新聞発行3社で見ると、売上高3968億万円に対して純益は143億円となっている。

朝日新聞社も連結30社を加えた売上局は4695億円(同0・5%減)。純益は128億円(同7・7%増)で、4期連続の最終黒字決算。新聞社単体でも売上高3135億円(同0・4%減)。年金制度改正に伴う特別利益もあって、純益は58億円(同5・6億円増益)だった。

日本経済新聞社は連結売上局が2879億円(同0・9%減)、純益113億円(同7・1%増)だった。単体では売上高1697億円(同1・2%減)で純益95億円(同43・9%増)。広告収入は増収に転じたが紙部数が減少した。しかし、経費節減と好調なデジタル版収入(同32%増)に支えられ増益となった。13年12月時点の電子版有料読者数は33万5059人で、前年同月比約8万5000人増えている。

毎日グループホールディングス(毎日新聞と子会社38社)は売上高2335億円(同2・2%減)で、純益は2億円を確保した。新聞本体も減収だが、純益は前期を若干上回った。同様に中日新聞社も売上局1452億円で純益6億円。産経新聞社も連結売上局1339億円、純益4億円(同47・6%増)だった。

◆堅調な決算の理由はリストラと関連事業

各社の増益基調を支えるのは不動産など関連事業の底堅さと、リーマンショック後、なりふり構わずに進めたリストラの効果だ。人員削減に始まり、最近までタブーだった新聞印刷の他社委託も完全にデファクトスタンダードになった。たとえば新潟県内では、ごく一部を除き各社とも印刷を新潟日報社に委託。同社の系列販売店に配達・集金まで委託している社もある。同じような流れは、有力地方紙が存在する東北、中京圏、四国、中国地方でも進んでいる。夕刊を発行していない統合版地域では、有力地方紙販売店に自社新聞の配達を委託する「合売店化」が拡大している。

朝日は12年、都市圏外の地域専売店を対象に「転身支援」と称する事実上の希望退職を募り、業界を驚かせた。

完全廃業(他系統に移らない)を条件に、開業時に本社に預託した代償金(ロイヤルティ)に加えボーナス(扱い部数500~1000は500万円、1001以上の店は1000万円)を支払う特典。本社の想定を上回る145店の専売店が応募した。相応の部数減を覚悟のうえで、補助金ばかり食って部数増が望めない過疎地域での専売網維持を断念する。そして系列優良店に集約するか、地域有力紙の販売店に委託するドライな決断だった。しかし、対象外だった都市圏の専売店から「われわれのほうが苦労している。なぜ対象に加えられないのか」と苦情が寄せられ朝日販売局を慌てさせた。

毎日は10年以来、全国紙のプライドを捨て共同通信社の国内配信サービスに加入、取材コスト削減に努めている。5大都市圏を除けば、新聞各社間の共同印刷、配達網の統合、編集協力という協働化か進行中だ。

◆販売店の破綻が続出流通システム崩壊危機

残る策としては、産経が先行した夕刊廃止がある。しかし、全国紙、地方紙合わせて1250万超の夕刊発行部数(13年下期日本ABC協会老査)があり、これを一挙に失うダメージは大きい。しかも大幅な人員削減が伴わないかぎり、効果は半減する。新聞発行のリストラ効果は限界に近づいたと見ていい。

その中で各社経営陣が何よりも恐れているのは、販売流通網の破綻である。新聞、雑誌の発行部数を考査している日本ABC協会によると、全国紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)の14年上期(1~6月)の朝刊部数は約2470万。13年下期に比べ67.6万減った。

減少の内訳は読売31.4万、朝日17.8万、日経H・2万、毎日6.9万、産経1456の順である。減少ペースは年々、加速している。より深刻な問題は、この現象が読者の新聞離れもさることながら、「部数至上主義」を長年支えてきた系統別専売網の急激な縮小を一因としていることだ。

1999年には全国に2万2311店あった新聞販売店は、13年に1万8022店。14年間で約4300店、20%近くが消滅した。従業員数もピーク時の96年(約48万人)に比べ、12万7000人も減っている。今回の消費増税と、販売店の現金収入源であった折り込みチラシの枚数激減によって、販売部数を維持できず経営破綻が続出している。

一般に、新聞販売店は優良店であっても10%前後の予備紙(在庫)を抱えている。まして経営破綻に瀕した店には不良在庫が多い。引き継ぎ店のないまま消滅されると、実読者数を上回る発行部数減を発行本社にもたらすのだ。

むろん、各社とも消費増税を前に手をこまぬいていたわけではない。朝日は、今年1月から6月まで1部当たり100円の特別補助金を販売店に投入。さらに「人材確保補助」などの名目で、異次元の支援を行った。743万部だから月間約8億円、その他も含め総額50億円台の大盤振る舞いであった。読売も東京、大阪本社を中心に、それぞれ年間を通じて10億円台の経営補助を投入して部数減に歯止めをかけようと必死だが、成功していない。

◆朝日はデジタルシフト 部数にこだわる読売

目の前の危機に対して、両雄である読売と朝日の対応は対照的だ。朝日の木村伊量社長は20年までを三つのステージに分け、大胆な体質改善を断行すると明言している。15年までに放送と通信の融合が本格化、メディア間の境界がなくなるシームレス化か加速する。20年までには、「次のテクノロジー革命が新聞を根底から変える。現在の生産、流通ネットワークが甚大な被害を受ける」(木村社長)と予測。先手を取って大胆なデジタル転換を進めている。デジタル版を充実させ(14年6月現在、無料を含め会員152万人)、米インターネット新聞「ハフィントンポスト」とも提携した。

一方の読売は、震災で900万台に落ちた部数を、13年11月に100万に戻した実績がある。むろん、これは「そうとう無理して積み上げた数字」(業界筋)であり、瞬間風速に終わったのも事実。それでも販売のプロは「本社が『何百万部まで減っていい』と言った瞬間、カミ(紙)は必ずそれ以上に減る。販売の現実からいえば、1000万部死守を言い続ける読売が正しい」(販売店関係者)と断言する。

少子高齢化の中で、紙の新聞の衰亡を見据えた朝日の戦略のほうが中期的には正しい。しかし、短期的には読売に軍配が上がるというのだ。朝日の訂正の問題も重なり、両社の読者獲得争いが再燃している。異なる道を歩む両社の戦略に答えが出る日は、意外に近いのかもしれない。

◆大手各紙のデジタル戦略

紙の部数の減少に悩む新聞各社紙は、不動産などの関連事業で収益を補完している。本業のジャーナリズムで成長機会を得るためにはデジタル対応が欠かせないが、紙の縮小をはね返すほどには育っていない。

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◆読売、毎日もついに紙面ビューアー開始
 
今年は、大手全国紙5紙の紙面がすべてパソコンやスマートフォンの画面で見られるようになった。「紙面ビューアー」と呼ぶ機能に慎重だった毎日新聞社、読売新聞社が相次いで導入に踏み切ったのだ。

毎日は2013年12月から「愛読者セット」として、紙の購読者に無料で紙面ビューアーを提供。当初は否定的だったが、消費増税対策もあり柔軟路線に切り替えた。

全国各本社版、北海道支社版、地域面、日曜の別刷りがすべて見られる。朝夕刊統合地区でも夕刊が読めるし、最終版で情報鮮度も高い。

加入者は38万人を突破したが、発行部数330万の1割強にとどまる。「年末にかけて50万人に届く見込み」(増田耕一取締役)だが、無料の割に高成長とはいえない。

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10月からはビューアーで『週刊エコノミスト』『毎日スポニチTAP‐i』など6媒体を有料で提供する。新聞本体の有料化へ向けての試金石としたいところだ。

読売の紙面ビューアーは今年4月に開始。本紙購読者限定の有料デジタルサービス「読売プレミアム」(月額150円)に追加した。プレミアムの会員数は非開示だが、紙面ビューアー開始で増加ベースが拡大したという。「デジタルでも従来の紙面の形で記事を読むスタイルが支持されている」と、東京本社の福士千思子取締役は見る。

無料ニュースサイトの「ヨミウリーオンライン(YOL)」は、月間ページビュー(PV)が約4億。女性向けコーナー「大手小町」の掲示板「発言小町」(左門下写真右)が人気だ。事前に投稿をチェックして誹誇・中傷が掲載されないようにしており、炎上がないのが特長だ。投稿は「話題」「男女」「子ども」などHジャンル、年間投稿数は150万件を超える。

ただ、読売は販売部数1000万目標の旗を降ろしていない。YOLへの会員制導入やプレミアム単独の販売は、当面ないだろう。

◆日経は有料会員が独走スマホアプリも実験中

日本経済新聞社は10年にいち早く電子版を開始、現在の有料購読者は37万人と断トツだ。「無料会員を合わせると240万人が日経IDを取得している」(野村裕知常務)。昨秋から「日経MJ」「日経産業新聞」もビューアー内で電子版とのセット販売を始めている。

今春から役者を使った「田中電子版」のテレビCMなどで若手に的を絞ったキャンペーンを展開中。「新規の有料購読者に占める20~30代が5割を超えた」(野村氏)という。秋には第5弾CMを投入し、1ヵ月無料販促を行う予定だ。

しかユーザーの使用デバイスではパソコンからモバイル端末へのシフトが

ユーザーの使用デバイスではパソコンからモバイル端末へのシフトが進んでいるため、スマホアプリ「Niid(ニード)」を実験中だ。日経の有料媒体に掲載された記事、情報を再編集したもので、「明らかにほかのニュースアプリを意識している」(新興メディア)。

9月中旬のイベントで、渡辺洋之・デジタル編集局長は「日経ブランドを基盤に、キュレーション(まとめ)で新しい価値を見つけてもらう」と意気込みを語った。アプリのダウンロード時に、有料版はいくらなら購入するかアンケートを取っており、「有料でのサービスを前提に準備を進めている」(野村氏)。

◆先行する産経、朝日は提携戦略で強み磨く
 
デジタル化で先行するのが産経新聞社、朝日新聞社の2社だ。

産経は于公社の産経デジタルが07年から日本マイクロソフトと共同運営していた「MSN産経ニュース」を9月末で終了、10月1日から「産経ニュース」(下写真左)をオープンした。提携解消はマイクロソフト側の事情で、グローバルなMSN刷新のためという。新しい産経ニュースはWeb独自記事「産経プレミアム」を拡充、モバイル用に写真中心の「産経フォト」なども増やす。

産経はさらに複数の雑誌メディアと提携し、総合オピニオンサイト「IRONNA(いろんな)」も立ち上げた。当初はPHP研究所、ワック、小学館、新潮社、ウェッジの5社と提携。雑誌からの転載記事や論文に加え、政治・経済などの解説や意見を提供するという。近藤哲司・産経デジタル社長は「パソコン、タブレット、スマホの3段階の画面の大きさに自動で最適化されるデザインが売り」と語る。

06年2月に事業会社化した際に外部資本を2割入れ、新聞本体とは独立採算でデジタル事業に取り組む。14年3月期の売上高は39億円、純益3億円と黒字を維持。08年のアイフォーン発売当初から参入したアプリは680万ダウンロードを超え、新興ニュースアプリを上回っている。

朝日は米ソーシャルニュースメディア「ザ・ハフィントン・ポスト」との合弁による日本版を13年5月に開始。百英国、フランスなど各国版と連携して記事やブログを和訳、国際ニュースや海外著名人のブログに関心を持つ層を集めている。月間ユニークユーザー数は約1300万。編集権は朝日から独立しており、誤報問題では朝日を批判する記事を掲載している。

5月に創刊3年を迎えた「朝日新聞デジタル」の有料会員数は17万人を超え、無料会員を含む総会員数は172万人余りとなっている。

野村総合研究所の三宅洋一郎上級コンサルタントは「デジタル版は新聞の裾野を広げるものではない。もともと新聞が好きな人のためのもの」と分析する。

各社は若者層の取り込みを図り、ある程度成果も上げているが、利用者の多くは依然としてシニア層。これを打破しないかぎり、ジリ貧の反転は難しい。