2014年06月17日

20160227世界人材

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世界に通用する人材。そのテーマには、日本は島国で資源がなく、自給自足では生きていけないという立地条件があるのは違いない。

良い暮らしをしたいと思うのであれば、高度な付加価値を生み出すサービスを作るもしくは従事しなければ、不可能だということにみんな気づいている。国富論=起業論の流れが加速してきたのも、やはりGoogleのようなサービスが生まれるイノベーション社会にならないと、ジリ貧になるという危機意識の現れだと思う。では、世界に通用する人材を作る大学教育とは、どのようなものか?引き続き、アエラ2013年12月2日号から紹介したい。

「世界」人材育てる大学

インターンシップ、現地調査、模擬交渉…
語学ができるのは当たり前。課題解決力があり、世界でたくましく働くことができる人材をどう育てるか。大学で新たな試みが始まっている。

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米国オレゴン州ワラワ郡。今夏、老人施設で国際教養大学(秋田市)と現地学生の日米混成チームが聞き取り調査を行った。オレゴン州立大学に留学中(当時)の3年生元村早希さんもチームの一人。東日本大震災でボランティアを体験し、地域活性化に取り組みたいと参加を決めた。

「最初はためらいましたが、思い切って話しかけると、家族の写真や手編みの作品を見せてくれ、次第に心を開いてくれました。日本のお年寄りと変わらないな、とほっとしました」

調査テーマは「集落活性化」で、秋田県由利本荘市でも同様の調査を行った。いずれも過疎化が進み、産業や福利厚生面で多くの課題を抱えている。調査終了後は大学に戻り、調査を基に議論して発表した。

◆英語は必要条件の一つ

これは、国際教養大学が行っている日米課題解決型協働科目(PBL)の一つ。同大はすべての授業を英語で行い、留学も義務づけているグローバル人材育成校だ。熊谷嘉隆教授は話す。

「英語力は必要条件の一つ。学生が課題を発見し、解を探すスキルが重要」

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文化も習慣も違う学生と協働することで、リーダーシップや交渉力などが身につき、学生はたくましく変わるという。元村さんも留学先で他の学生に圧倒され発言できなかったが、このPBLをきっかけに、積極的に手を挙げるようになった。

国際教養大学は、秋田県の公立大学。2004年に設立され、日本初の地方独立行政法人運営の単科大学だ。留学なしに卒業はできず、専任教員の約55%が外国籍である。

同大は就職率の高さに定評があり、希望者の99%が内定を得ている。留学を通して日本人としてのアイデンティティーを真剣に考えるようになり、日本の強みである「ものづくり」に貢献するため、メーカーへの就職をめざす学生も多いという。

グローバル人材といえば、国連など国際機関、外資系企業で働く人をイメージしやすいが、こうした分野は採用人数が限られており、難関大学出身者で占められる。

外交官のキャリア組(外務省総合職員)は東京大学が圧勝。専門職員は、東京外国語大学と大阪大学が強い。そもそも国際機関で働く日本人は少ない。

「国際機関は即戦力が求められ、修士号の取得と最低2年の職務経験が条件です。一般的に雇用契約も、2、3年ごとに更新。終身雇用が一般的な日本では不安定に見える。日本と世界の労働環境の差異が大きい」(外務省)

国際機関で働く日本人を増やそうと、外務省はJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)派遣制度を実施する。将来、正規職員になることをめざし、派遣費用を国が負担して原則2年間、国際機関へ送り出す。

こうした取り組みの一方で、さまざまな大学で独自色を出した人材育成教育が始まっている。

世界に通用する人材が求められる場所は、国際機関ばかりではないからだ。文部科学省も昨年から「グローバル人材育成推進事業」を始め、大学を支援する。公募制で採択校には年間1億2千万~2億6千万円が配分される。国際教養大学もその一つだ。ほかの採択校も訪ねた。

◆通訳ボランティアも

千葉市にある神田外語大学のキャンパス。外国人講師と交流できるラウンジ、ベトナムや韓国などの街並みを模したブースなど国際的な雰囲気が漂う。同大学の佐野元泰理事長は「語学の習得は、毎日の積み重ねが大事。モチベーションを高める環境が必要です」と話す。語学力向上のために、個人カルテを作って指導するラーニングアドバイザーもいる。

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授業の成果を実践できる場の開拓にも全学的に取り組む。学生の通訳ボランティアは、英語だけでなく韓国語、中国語、スペイン語などに対応。2020年の東京オリンピックに向けて準備中だ。

学生の就職先はタイ、シンガポール、ベトナムなどの東南アジア、中国、韓国のほか、メキシコ、ブラジルなどの中南米も。商社やメーカー、物流などの日系企業に現地採用されるケースが多い。日本から派遣された駐在員と現地ワーカーとの橋渡し役として活躍しているという。

◆中国のスーパーで接客

愛知大学(名古屋市)の現代中国学部では中国に関わる人材を育てている。在学中は全員必修の留学のほか、北京のイトーヨーカ堂で接客業務、JTB上海で旅行企画などの研修を行うインターンシップ、現地調査が授業に組み込まれている。調査は、毎年都市を変え、最近では青島(チンタオ)、寧波(ニンポー)などで、都市の家庭、農村、企業を訪問してライフスタイルを尋ねた。

同学部の歩みは、日中関係に翻弄されてきた。志願者数は北京オリンピックで増え、靖国神社参拝問題で減った。さらに尖閣諸島問題で、今年の現地調査先は中国から台湾に変えざるを得なかった。

10月末に天安門広場前で自動車突入・炎上事件が起こったとき、「日中関係論」などを担当する砂山幸雄副学長はゼミ合宿を行っていた。事件を受け、中国人留学生を交えて、「あれはテロなのか」「いや違うのでは」と白熱した議論がなされた。

砂山さんは、「日中関係が厳しい今こそ、中国を理解し、同時に中国に日本について説明できる人材を育てたい。外交官や外資系企業のエリート層だけではなく、地元の中小企業にも目を向けています。日本全体のグローバル化が進んでいる現在、それに対応できる人材こそグローバル人材でしょう」と話す。

東海地方はトヨタ自動車に関連する大小の製造業が多く、入社してまもなく中国出張、駐在を任されるケースがある。大学教育が生かされる現場はここにある。砂山さんは続ける。

「中国だからといって身構えない、つまり異文化ストレスを持たずにアジアと向き合える人が輩出しています」

◆県警の外国人対応部署

北九州市立大学も、新たな二つのプログラムを昨年立ち上げた。一つは国際政治経済、経営戦略を学び、企業研究に取り組み、全国規模の企業や外資系で活躍できる人材を育てる。もう一つは、日本の歴史、思想、文化などを学び、地域社会や地場産業に貢献できる人材を育成する。

同大学の漆原朗子副学長が話す。

「地方公務員への就職者が多い。北九州市の海外駐在拠点、福岡県警の外国人対応部署などでの勤務を想定しています」

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ビジネスの世界だけではない。東京医科歯科大学国際交流センター・高田和生教授は、医療人の国際化を訴える。

「今や、日常診療で国際標準に沿う医療を提供する時代。災害時やバンデミック時には各国と情報交換し、連携しなければならない。国際保険や研究分野でのリーダー育成も緊急の課題」

医、歯学科の学生を対象としたグローバル・コミュニケーションを開講。リーダー養成プログラムも始めた。その一つが、土曜日のワークショップ「英語模擬交渉」。たとえばアフリカで、住民がワクチンの接種を拒むという場面を想定。住民リーダーを外国人留学生、世界保険機構(WHO)職員や役人を日本人学生が演じて交渉する。

選抜した学生を対象に、リーダーとしての資質や能力を身につけるために、ハーバード大などへ4年次に研究留学、6年次に臨床留学する制度が設けられている。同大学付属病院で研修医として働く中村俊医師は、留学経験を振り返る。

「「臨床研修では、患者を診察して病状を判断し、治療方針を上級医にプレゼンしました。最終的には上級医が判断しますが、常に自分の考えが求められた」

【グローバル人材の就職先】

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アクセンチュア

1、慶応義塾大/33人
2、早稲田大/29人
3、東京大/18人
4、京都大/12人
5、立教大/9人

日本IBM

1、慶応義塾大/24人
2、早稲田大/21人
3、東京大/14人
4、東京工業大/9人
5、立教大/7人

外務省総合職

1、東京大/18人
2、京都大/4人
3、慶応義塾大/2人
4、一橋大/1人
5、東北大/1人

◆すべてグローバル人材

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グローバル人材育成のためには、大学もグローバル化しなければならない。グローバル化の度合いを知る指標として、世界の大学ランキングがある。タイムズ・ハイヤー・エデュケーション誌による最新版が右の表だ。

【世界の大学ランキング】

1、カリフォルニア工科大
2、ハーバード大
3、オックスフォード大(イギリス)
4、スタンフォード大
5、マサチューセッツ工科大
6、プリンストン大
7、ケンブリッジ大(イギリス)
8、カリフォルニア大バークレー校
9、シカゴ大
10、インペリアル・カレッジ・ロンドン(イギリス)
23、東京大
52、京都大
125、東京工業大
144、大阪大
150、東北大

教育、国際化、産学連携、論文引用などを合わせた評価だ。日本の大学は留学生、外国人教員比率などの「国際化」項目が、欧米の大学に比べてかなり低い。「国際化」を進めることがそのままグローバル人材育成につながるとは単純には言えないが、競争原理が働き教育が活性化して、結果的に世界で活躍する人材が増えると期待できる。

今年、立教大学はグローバル教育センターを開設した。選ばれた者だけでなく、すべての人が国際舞台でリーダーシップを発揮できる人材育成を掲げる。センター長の山口和範教授は話す。

「グローバルという言葉は早めに消したい。グローバルでない大学はありえませんから」

日本の大学卒業生が、すべてグローバル人材になる。今のところ、大学が学生に手取り足取り指導している感じは否めないが、「内向き」「さとり」と言われる学生には、ある程度のお膳立てが必要なのかもしれない。

個人的にはグローバルで活躍できる要素の一つとして、英語でのスピーチ、プレゼン力が必須だと感じる。英語で企画書を作成し、ユーモアを交えながら、魅力的なプレゼンできる力。残念ながら、日本には圧倒的に不足している分野だと思う。